(少し前の、『誰よりも、ずっと』のその後として書いています。)
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他の男の隣で幸せそうに笑う琶厦を見て、
何で俺たちには血が繋がっているんだろう、なんて思ってしまった。
“双子”に戻ろうと言った八年前の18歳の頃。
好きだった。心の底から愛していた。
別れを告げた後も、ずっと、生まれてから琶厦しか愛していない。
そんなことをぼんやりと考えながら、控え室でウエディングドレスを見に纏う琶厦を見つめた。
「琶厦ちゃん」
そう呼びかければいつも優しく微笑んでくれた琶厦。
そんな彼女も、今日で結婚する。
俺と別れた後、何かを断ち切るように俺と住んでいた家を出て、他県に引っ越した琶厦。四年前、やっと帰ってきたと思ったら婚約者を連れてきていた。
そろそろ式が始まる直前、という時に結婚相手に控室から出ていってもらい琶厦と2人にしてもらった。
『琶朱兄ちゃん、ついに私も結婚するんだね。』
そう言って俺に微笑む琶厦。式上手くいくかな?と少し恥ずかしそうにしながら尋ねてくる琶厦は、本当に幸せそうだった。
心の底から幸せそうで、今まで見てきた中で1番と言っていいほど喜んでいるのが分かった。
その琶厦の幸せを作っているのが、一緒にその幸せを分かち合うのが自分でないことがたまらなく悲しくて、悔しくて、
「琶厦」
と呼びかけながら可愛らしく化粧が施された顔に手をやった。椅子に座る彼女に近づき、小さい頃から変わらないその顔を見つめた。
「俺は、琶厦のことが本当に、」
俺の空気を感じとったのか、俺が言おうとしたことを察したのか、琶厦は悲しいような、少しだけ泣きそうな顔で笑って俺の口を手で塞いだ。
(言わないで。)
彼女の目が、そう言っていた。
そうした後、何かを考えて思い直したように、彼女は俺を少しだけ、触れるか触れないかの距離感で抱きしめた。
「一度でいいから、昔みたいに、あの頃みたいに呼んでよ。一度でいいから。お願い。」
そう言えば、彼女は少しだけ狼狽えて、それを発しようとして開きかけた口を、また少しして閉じた。
『琶朱兄ちゃん。』
それが、答えだった。
抱きしめていた腕を離して目を見れば、少し揺れた瞳で俺を兄として見つめていた。
『今まで、ありがとう。大好きだったよ。』
そう言った彼女のことを泣きながら見れば、
『---君。』
どこからか昔の呼び名で俺を呼ぶ琶厦ちゃんの声が聞こえた。もう、十分だ。ごめんね、愛してたよ。
幸せに、なってね。可愛い妹。
#声が、聞こえる。
9/22/2024, 3:45:16 PM