『誰にも言えない秘密ってある?』
こてんと首を傾がせて,されど興味なさげに いつもの口調で君は問う。
『…… どういう意味』
ここで話すのなら既にそれは”誰にも言えない秘密”ではなくなる。だとすればそんなことを問うても,答えても意味が無い。
『意味? そのまま。心の奥底に隠して秘めて閉じ込めているものがあるか ってこと』
『誰でもあるんじゃないか。人に言わないことくらい』
いくらでも。そう心の中で付け足す。言えないことも言わないことも星の数ほどあるだろう。
『他人事だねー。君にはないの?』
『まぁな』
ある。 と言ったらどうするんだと思いながら視線を絡める。いつもと同じ真っ直ぐで輝く色。
言えるわけがない。お前が好きなんて。
言うわけがない。友達以上になりたいだなんて。
だから,言わない。他人事の一般論の中に隠せばいい。
『それだけぇ。君,僕に対して冷たい。因みに僕はあるよ』
『そうか。十分優しいだろ』
言葉が続かない。何を聞けばいいのか,聞いていいのかわからない。こいつの秘密に踏み込んだ そのあとが想像できない。
『むー。興味なさげ。聞いてくれてもいいじゃん』
『秘密なら秘めたままにしておけよ』
変わらない方が幸せだ。秘密の共有は,互いの秘密ではなく 2人でつくりあげた秘密でするべきだろう。
どちらかの秘密を暴き立てるものじゃない。
---
今日は普段よりKと話した。いつも通り僕が話してKが返事をする。やる気なさげな視線の裏では黒く輝く瞳。貫くようにただ僕に向けられていた。
Kの秘密を聞き出そうとしてもあっさりとかわされて,等価交換で教えてもらおうとしても駄目。
どこか諦めをのせたそんな表情で笑っていた。
あの時言えなかった秘密。ずっと飲み込んでいた言葉。今日こそは伝えようって思ってたのに。
ありきたりでもいいから僕の本音を。「Kが......」
---
そこまで書いてページを閉じる。ふっと短い息を吐き自嘲した。書けるわけもない。こんな所にKへの想いなんて。
既に数万文字は超えた文章。その一文一文はKに対する思いの欠片。結末は誰も知らない,けれどきっとハッピーエンドにはならない物語。
「明確な言葉にはしてはいけない」
少なくとも僕がKに伝えるまでは。他人にこの気持ちを読ませたりしない。秘密だから。
だから,いつか カギ括弧の続きを書けたらいいななんて夢を見ている。
テーマ : «どこにも書けないこと»
2/8/2023, 3:09:17 AM