シュグウツキミツ

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冬の足音

ああ、逃げなくては、逃げなくては。隠れる場所はどこだ。物置の下、駄目だ。作業小屋の中、駄目だ。大きな木の洞の中、駄目だ。駄目だ、駄目だ、見つかってしまう。どうしたら、どうしたら。ああ、すぐそこまで来ている、捕まってしまう。まだだ、まだだ、まだ何も用意していない。
薪も割り終えていない、ストーブも用意していない、椎茸も柿も干しきれていない、食べ物だってまだ十分じゃないんだ。
ああ、それなのに、それなのに。
思えば休みすぎていたんだ。夏の暑さがあまりにも酷くて。秋になってもなかなか涼しくならなくて。ようやく涼しくなって人心地つくと思っていた矢先、もう来てしまうなんて。準備なんてまだまだだと怠っていた。
もう、間に合わない。
ずしん、ずしんと音が響く。向こうに見える山はもう白くなっている。このごろ家の周りの空気も冷たくなってきた。迂闊に吸い込むと鼻の奥が冷気に叩かれる。もう間に合わない、呑み込まれる。ずしん、ずしん。
冬の足音が響いてきた。

12/4/2025, 9:22:49 AM