古びた金属の関節部を、ギシギシと音を立てて旧型のアンドロイドは首を傾げた。壮大なメモリデータを整理していたところ身に覚えのないデータが出てきたからだ。
「幼い少女とのデータ……これはどこの花畑でしょう」
自身の中のデータを分析して、いつどこで記憶したデータなのかを分析していく。そのデータはおよそ50年ほど前のデータだった。
「50年前……誕生してすぐ記録されたものだ」
いくら旧型と言えど、1度記録したデータは忘れるはずがない。それなのにすっぽりと記憶から抜け落ちているのだ。旧型アンドロイドは少女との会話メモリを再生してみた。ジジッ、と鈍いノイズの後可愛らしい声が聞こえてくる。
「アンドロイドさんはいつまでここにいるの?」
「ずっとだよ」
「そうなの?」
「うん」
「楽しくないね」
「たのしい?」
「んーと、……ワクワクしないね」
「わくわく」
「……ねぇアンドロイドさん、何でご飯は美味しいと思う?」
「それは旨味を感じる器官が人間にあって、食材にも……」
「違うよぉ」
「違う?データに間違いはありませんよ」
「聞いた事なぁい?ひとりで食べるよりふたりで食べた方が美味しいんだよ!」
「あぁ、あれはそう感じているだけで実際は……」
「ちーがーうー!アンドロイドさん!!ふたりで食べた方が美味しい事理解できたら、もっともーっと楽しくなるよ!」
「それではデータに登録を」
「む!データとかじゃないの。次会う時までに理解してきて、約束!!」
「分かりました。約束としてデータを記録しておきます」
「うん!」
約束した時から時間だけが経っている。何ひとつ理解出来ていない。あの少女はどうなっただろうか、まだこの街にいるのだろうか、それとも。
データを破棄してしまえばなかった事に出来る。旧型アンドロイドはデータ消去の回路に手を伸ばしたが、メモリの片隅に約束をしまい込んだ。
『いつまでも捨てられないもの』
8/17/2024, 11:06:25 AM