いのり

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「子供の頃は」

 娘から、来月入籍することになったと連絡を受けた。来月26歳になる娘は、会社員で電車で1時間程離れた町で独り暮らしをしている。
 突然のことで驚いた私は言った。
「なんだ、お付き合いしている人がいたんだ」
「付き合ってるといえばそうだし、付き合ってないかもしれない」
 娘の返事は曖昧である。
「結婚式はしないの?」
と尋ねると、
「それはないかも」
と声に元気がない。
 なぜそんなに突然決まったのか、さらに尋ねると、赤ちゃんができたからと言うので、さらに驚いた。
 親が親なら、子も子だ。
「やだ、今まで言わなかったけど、私もそうだったんだよ」
「ええ!」
娘が大声を出した。
 今は「授かり婚」というらしいのだが、30年以上前の私の時は「できちゃった結婚」とか「でき婚」といわれていた。両親からは、とりあえず早く籍を入れなさいと怒られ、職場では順番が違うんじゃない?と冷ややかな態度をとられ、特に年配の女性からは、汚物のように避けられた。
 娘が生まれて成長していくうちに、私自身の周囲に対する恥ずかしさや気まずさは少なくなっていった。何より両親と義両親が娘を可愛がって
くれたことがとても嬉しかった。
 妊娠がわかった当初は、しばらく悩み泣いたりもしたが、結婚したことも産んだことも正解だったと思った。

 それから娘の仕事が休みの日は、私は娘の新居のアパートに出向いて家事やら出産の準備を手伝った。母親の私が同じような道を通って来たことで、安心しているのだと思っている。
 入籍を終え、予定日まであと3か月となり、私のほうが楽しみだった。
 そして私は娘の思い出話を語って聞かせるのだ。
「あなたが子供の頃はね…」 
 あんなに可愛らしく幼かった娘が、母親となるなんて。なんて感慨深いのだろう。

 まったくばばバカである。

6/24/2024, 8:59:48 AM