病室
子供の頃は病院が家だった
病室から午前中だけ小学校へ通ってた
父が毎日車で送迎してくれた
大変だったろうと思う
「バイバイ!」と手を振りながら
父の車を降りて病室に戻り
翌朝運転席の父に
「おはよう!」と言うのが日常だった
今まで考えたこともなかったけど
入院していた長い間
私は家にはいなかったんだ
あの家は家族4人で暮らしてたんだ
いつも病室の窓から外の景色を見下ろしていた
あまりに長い間そうしていると
道行く人も車も、天気でさえも
自分がリモコンか何かで動かしてるような感覚になった
そのうち視線を部屋の中に戻しても
ベッドに横たわるこの人達も
看護師さんも先生たちも付き添いの人たちもみんなみんな、
自分が創り出して、自分で動かしてるのだとしか思えなくなった
だってどう考えたってゲームの画面と同じじゃん…って
人は思ってないことを言うと、顔が黒っぽくなるんだ
同じ色の丸で囲まれた看護師さんと先生がいる
その怪我は事故じゃない。でもその子は自分に起きたこと全てを受け容れている。落としたお母さんを恨んでいない。
退院して普通の生活に戻ると
いつの間にかその感覚は消えていた
今ふと思う
自分で創ったゲームなら
楽しいのにすればよかった
…ああそうか!
そうしたんだった
そうして私は退院したんだ
これからはどんなゲームにしようかな
8/2/2023, 10:48:44 AM