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ゆうちゃん、というのが彼のあだ名だった。僕が小さい頃からお世話になっている、6歳年上の近所のお兄さん。

ゆうちゃんは、いつも僕と遊んでくれていた。僕が反抗期だった頃は、親だけでなくゆうちゃんにまで反抗して、困らせていた。
ゆうちゃんはどんな人? と聞かれたら、真っ先に僕の大好きなお兄さん! って自信を持って言えるくらい、大切なひと。

そんなゆうちゃんが、婚約者を連れてこの町に戻ってきた。3年ぶりだった。ゆうちゃんは、元々かっこよかったけど、さらにかっこよくなっていた。

ちゃんとした、社会人のようだった。

ゆうちゃんと婚約者が僕に挨拶してくれた。
お嫁さんになる人が、

「貴方がこうくんね? ゆうくんからよく聞いていたの」

なんて言っていた。彼女が勝手に僕をあだ名で呼ぶことはかなり不服だったが、ゆうちゃんがあっちでも僕のことを忘れてなかったことが嬉しかった。

なんだか喋る気にもならなくて、適当に相槌を打っていたら僕の機嫌を察したのか、ゆうちゃんが「じゃあ、そろそろ行くね」と言った

僕は、ゆうちゃんを引き留めようとしたが、なんて言えば良いか分からなかった。小さい子供でもないのにゆうちゃんはおかしい気がした。結局

「.........ゆうまくん、また来て良いからね」

なんてふてぶてしい言い方になってしまった。彼の名前を言うのは久しぶりな気がした。
悠くんは対して怒っているようなふうには感じなかった。寧ろ少し嬉しそうにしていた。

「うん、うん。また来るよ。こうたくん。」

そんなふうに言って、彼は去ってしまった。けれど、僕の名前をきちんと言ってくれたのはいつぶりだろう。
僕は、かなり嬉しい気持ちでいっぱいだった。

今日は、悲しいだけの日ではなかったかもしれない

5/26/2025, 12:06:43 PM