例えば、「ただいま」には「おかえり」が返ってくるように、「好きだよ」に「大好きだよ」が返ってくる会話を永遠とする人々がいる。
恋人同士の暗黙の了解といったものだ。
カップルの数だけ、そういった掛け合いが世界には存在しているはずだ。
勿論、恥ずかしいから皆、普段そんなこと1ミリも知りませんといった顔ですましているだけで、恋人の前ではそういうイチャイチャを常日頃からしているものである。
だが、私はというと、そんな愛に溢れた合言葉とは縁遠い人生を送っている寂しい人間で、そういうコミュニケーションは空想の産物に過ぎないとわりと最近まで本気で思っていた。
若い頃は恋愛なんてしょうもないと目にもくれずただ仕事に邁進していた。ところが、三十路を超えてくると人肌恋しい気持ちが自然と湧いてくる。
しかし、もう無理かもしれない。私は所詮「売れ残り」なのだ。人生のパートナーもいない私にとって、仕事が唯一の恋人だった。
「私が死んだらこの仕事君に任すね」
酒の勢いに任せてかわいい後輩にそんなふうに弱音を吐いた。いつもの如くだる絡みされた後輩は嫌そうな顔をしている。そうすると、いつものようにこう言った。
「いやですよ。何遍言わすんですか。死んだら困ります」
その言葉が聞きたくて毎度弱音を吐く私も、十分合言葉に縋っている人間だ。
お題/愛言葉
10/26/2024, 1:26:57 PM