「遠くへ?」
僕は思わず聞き返した。君が突拍子も無いことを言ったから。
「うん。どこでもいいから、遠く、遠くへ」
君は真剣な目をして僕を見つめる。つられて僕も真剣になって、見つめ返した。
遠く。具体的な場所は無く、遠くに?どのぐらい?市外?北海道や沖縄?それともアメリカ?はたまた宇宙?僕は脳内で、思いつく限りの遠い場所を、ぐるぐると巡っていた。
「まあ、どこでもいい訳じゃないけど」と君は付け足し、空を見上げた。オレンジだ。絵に描いたような夕焼け。ちょっと紫がかった天を暫く見ていると、首が痛くなってきてしまう。
「行こう、遠く」
僕は言った。僕達なら、どこにでも行ける気がした。なんとなくだけど、君もそう思ってくれているだろう。
「あ、雨」
ぽつり、と僕達の顔を濡らす雨。どうしよう、傘を持っていない。君の方を見ると、困ったように笑っていた。
お互いの顔を見合わせて、笑い声を上げて、僕達は走り出した。雨はだんだん強くなっていく。遠くへ行け。そう言うように。
二作目「遠くへ行きたい」
7/3/2025, 10:09:13 AM