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ガランとして暗い回送列車に揺られながら、どこへ行くのだろうと考えた。この電車の行き先は知っている。ただその後のことはよく分からない。
やっぱりこの大量の爆薬と一緒に東京を燃やして飛んでいく運命なのだろうか。だから僕みたいなのに任されたのだろうか。上官の
『お前は英雄になれるんだ、教科書にも名前が載るくらいのな』
という言葉が脳裏を通り過ぎた。
向かいの窓に反射した自分の顔をしばし眺めていると、世のすべてが分かるような気がしてきた。
「死にたくない……ここから逃げよう」
気づけばそう口にしていた。自分はすでに答えを得ていたようだった。
先頭の車掌室の装置を手当たり次第に押していると、何度目かで扉が開き、そのあとプシューと音を立てながら列車は止まった。そんなに簡単なことだと思えなかったが、偶然もあるもんだと飲み込んだ。
靴と首元に仕込まれたGPSをはずして、外に出た。闇夜に浮かぶ満月が美しい。
しばらくぼんやり眺めていると、満月がだんだん目覚まし時計の様相を呈して、ブルブルと震えながらジリリリリ!!と鳴きだした。


「おい、起きろ!」
大声に驚いて飛び起きると、そこには上官がいつもの何倍も厳しい顔で立っていた。
「お前に重大任務がある」

11/4/2024, 12:14:56 AM