思いつきなんちゃって小話

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【ありがとうを伝えたくて】

ピッ…ピッ…ピッ…



目覚めたのは、そんな音のする部屋だった。
どうしてしまったのか、真っ白な天井を見て思い出そうとする。

あの人と一緒にカフェに行って、帰りに本屋に寄りたいってわがまま言って遠回りして、大きな交差点で信号を待っていた。

彼は、いつもの笑顔で
「帰ったらアイス食べちゃおう‪🍦‬」って言ってたっけ。
私は、その言葉に「さっきカフェで食べたでしょっ?」って返したんだ。

そして…
そして私たちが青信号なって渡ろうとした時に…トラックが、ぶつかってきた…。
じゃあ彼は?彼はどこにいるんだろう。隣を見たいけれど、首が痛くて白い天井しか見れなかった。

その時、タイミングよくお母さんが病室に入ってきた。

「あなた!!意識を取り戻したわよ!!やったわ!」

今まで聞いたこともないような大きな声で騒いでいる母に、「彼はどうしたのか。」と聞こうとした。

しかし、その声は形にならなかった。

母が呼んだであろう看護師と、医者が私の元へやってきて色々な診察をしていった。難しいことばかりで何を言っているのかさっぱり分かりはしなかった。
医者は最後にただ一言「心臓があって良かった。」と言った。

質問したいが声が上手く出せず、「あ゛ぁ…うぅ…」という唸りとなり口から漏れた。
その声を聞くなり母が手を握ってくれた。良かった感覚はあるんだななんて思いながら、涙を流して喜ぶ母をただ見つめた。

診察がおわり、病室は静寂に包まれる。ただ機械だけが、ピッ…ピッ…と鳴り響いている。
そんな中、静寂を打ち消すように母が口を開いた。

「あのね。落ち着いて聞いてね。 あなたと一緒にいた、彼の事なんだけど…」
その声色は暗く、表情は苦しそうだった。


「彼は、あなたを庇うように」


ああ、そうだ。大丈夫。分かっている。何となく感じていた。医師の話や、話の雰囲気で。



「死んでしまったの。」



だから言わないで欲しかった。
辛くてたまらなかった。こんなことなら死にたかった。



「けどね、あなたの心臓は彼がくれたものなのよ。」



…なんて思ってしまうのは、良くないことなのかもしれない。彼が私のためにくれた命なんだから。



「だから、彼の分まで強く生きるのよ。」



ただ、今は泣いていたかった。



涙をずっと流していた。疲れてしまったのだろうか、気づいたら寝てしまっていた。母ももう帰ってしまったらしかった。
時計を見ると、24:05。今まで寝ていたから眠くないはずなのに、いきなり強い眠気に襲われた。

そして、夢を見た。

あの日の夢。
彼と手を繋いで歩いたあの日。
いつもの笑顔で私に笑いかける彼に、涙が止まらなくなった。夢でもいいからずっと一緒に居たいと思った。
そんな私の頬に手を置き、涙を拭いながら彼は言った。

「ほんとに泣き虫なんだから。そして、真面目。絶対に自分を責めちゃダメだよ。僕は、自分の意思で君を守ったんだから。だからさ。なんて言うのかな。その、重いかもしれないけど僕の為に生きて。お願い。」
そういい、私の胸に手を当てる。

「僕はいつでもここにいる。だから大丈夫、寂しくないよ。本当に愛してる。僕の分まで長く生きて、こっちに来る時沢山お話聞かせてね。じゃあ。またね。」

彼にただ伝えたかった。『ありがとう』って。
けどやっぱり言葉は形にならなくて…夢の中でくらい愛してると伝えたかった。そんな思いで目を覚ました。
現実でもやはり話せなくて、唸り声しか口に出ない。
リハビリをすれば言葉を話せるようになると母は言った。

彼に、『ありがとう』を 伝えるために。
彼に、『愛してる』を伝えるために。


私は今日もリハビリを続けている。

5/3/2023, 2:35:56 PM