あかるあかり

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『静かな夜明け』

 夜を徹して過去問を解く。
 ペンがノートの紙を走る音。時々紙に引っかかる、摩擦が手に伝わる。

 この試験に受かったら。

 手をとめて傍らのホットコーヒーを一口飲む。それはいまや、ホットコーヒーだった飲み物となっていたが。

 この試験に受かったら……。

 何か死亡フラグ的なものを云ってみたかったのだが、あいにくと気の利いた科白は浮かばなかった。
 試験に受かったところで、プロポーズする相手はいない。告白しようとて片想いの相手すらいない。

(参考書と過去問題集が恋人みたいなものだったからな……)

 苦笑いすら浮かばない。
 ただ、無事に第一志望に受かれば新年度から憧れのひとり暮らしだ。
 家族が嫌いなわけではない。それでもひとり暮らしという言葉の解放感に期待ばかり募る。

 さて、続きに戻るか。

 伸びをしてまたペンを手に取る。
 カーテンの向こう側が白みかけている。もうそろそろ、夜明けだ。

 徹夜で勉強なんて、効率はよくないと散々云われている。体力も気力もありあまる若い時期だけの戦法ではある。
 それでも、無音のなかで迎えるこの夜明けは特別感に満ちている。

◆◆◆◆◆

 この冬を走り抜ける。
 この夜を走り抜ける。
 春を、夜明けを、迎えにゆく。

2/6/2025, 10:36:44 AM