私はお姉さんが好き。
姉さんの使っている紅が好き。
いつも窓辺の化粧台の上に置いてある
綺麗な細工の入った銀のコンパクトの中に
咲く紅の赤
姉さんはいつも鏡台の前に座って紅を引く
鏡越しに映る白く半開きの口元を紅が
染めていく様子がとても蠱惑的に見えた。
あまりに私が見るものだから、優しい姉さんは
ちょいちょいと私を手招きして鏡台に座らせ紅を
塗ってくれた、恥ずかしいような、
くすぐったいような。
鏡に映る私の頭上で微笑む紅がずっと欲しくてたまらない。
ある日、何層にも重なった紅の様な色の空の中
姉さんは男の人を家連れてきた
玄関先で紹介してくれたその人はとても優しそうで
いい人だった。
男の人を紹介してくれる姉さんの口元に朝に
ひいた紅の色は無く、代わりに姉さんの
白い頬にうっすらと紅の色が咲いていた。
姉さんの祝言がある朝、
私はずっと姉さんが座っていた鏡台の前に座り、
紅をさす。
ずっと欲しかったが結局、
手に入ることのなかった紅を思いながら
綺麗な細工の入った銀のコンパクトをそっと鏡台の上に置いた
2/20/2025, 2:41:54 PM