小鳥のさえずりで目を覚ました。
慌てて時計を確認したが、そういえばと昨日上司に辞表を叩きつけたことを思い出し、もう一度布団に潜った。午前10時のことだった。
どうして辞めてしまったのか、ハッキリとした理由は無い。仕事はそこそこ上手くいって、人間関係も良好で、上司にも将来を見込まれていた。ただ、心残りは全く無かった。
焼いたトーストにバターを塗って、チーズ、ハム、レタスを間に挟んだサンドイッチと、市販のコーンスープで昼ごはんとした。
それをペロリと平らげたら、することが無くなってしまった。いつもは仕事に関する勉強をしていたが、もうその必要もないだろう。
何の気もなしに昔のアルバムをペラペラとめくっていたら、ある写真が目についた。
中学3年生で賞を取った、水彩画の写真だ。
一時期毎日のように描いていたが、高校・大学に入って時間が無くなり、結局この写真の作品が最終作となってしまったのだった。
「わたし、しょうらいはえかきになるの!」
幼稚園の記憶が鮮やかに蘇る。
そうか、私は絵描きになりたかったんだ。
けれど、“忙しい”を理由に諦めてしまった。
“向いてない”“どうせ続かない”
ネガティブな言い訳で、私の気持ちに蓋をしていたのかもしれない。
それが今日、一気に放たれたのだ。
画材は実家に置いてきてしまった。
なら、また新しいものを買えばいいだろう。
今まで無趣味だった分、貯金はたっぷりと溜まっている。時間だって余るほどある。
そうだ、今日から気が済むまで、
もう一度だけ、追いかけよう。
あの夢のつづきを。
1/12/2025, 12:01:20 PM