『スリル』
買い物をする時、僕の脳裏にはふと、これは万引き出来そうだなと悪い考えが過ぎる。
防犯のタグがない小物や、タグがついている台紙からすぐに外せそうなアクセサリー、監視カメラの視覚になっている場所、防犯のセンサーが設置されていない店。
僕の脳は、いつも自然と万引きのシミュレーションを始める。自分で言うのは何だが、僕は善良な人間である。こんな事を考えながらも万引きをした事など一度もない。
愛想がいい事で近所のおばちゃん達にも人気だし、バイト先でもいつも元気でニコニコしていて良いねと褒められる。今までの人生でした悪いことは、急いでいた際に車通りの少ない道路で信号無視をしてしまった事くらいで、人畜無害とは正に自分を指す様な言葉だ。
別に、特別その物が欲しい訳では無い。お金に特別困っているという訳でもない。ただ、僕は面白さを見出してしまっているのだ。もし、万引きをしたらと考え自分がまんまとこの店から何かを盗るという誰にも知られない、自分の頭の中だけでのスリルを。
僕がこんな事を考えているなんて、誰も思いすらしないだろうという倒錯した優越を。僕は一人愉しんでいるのだ。
11/12/2023, 12:15:21 PM