300字小説
春の弥生の善き日
子供の頃、友達の家のひなまつりが眩しかった。うちは父がそういう行事に金を使うのが嫌いで、母は女の子より男の子が欲しかったらしく、一度として、ひなまつりをしたことが無かった。三月が近くなるとコッソリ、友達の家をハシゴしてひな人形を見せて貰ったものだ。
「……可愛い! このぬいぐるみのひな人形、良いな」
もう何体目か、目についたひな人形を買う。大人になり実家を出てから、私は毎年、ひなまつりを祝っている。
たくさんのひな人形を飾り、ケーキにちらし寿司、はまぐりのお吸い物で昼間から飲んでしまう。
「大人なのにおかしいかな?」
『おかしくないわ。女の子のお祭りですもの』
部屋の片隅で鈴が鳴るような声がくすりと笑った。
お題「ひなまつり」
3/3/2024, 11:09:12 AM