貴方と知り合った最初の秋は、何もかもが楽しかった。食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋、全部を貴方と楽しんで、寂しいなんて感じる暇すらなかった。
貴方と行った冬の温泉。
二人で雪見酒を楽しんだ。掘りごたつで足をつつきあって、年賀状を手渡しで交換した。
春に引っ越したアパートは、狭い部屋だけど窓から桜がよく見えた。どっちも本を捨てたくなくて、棚をどうするかで喧嘩した。
初めて行った夏の海。
夜の浜辺を手を繋いで歩いた。誰もいない静かな海で持ってきた花火を二人でやって、最後の線香花火は貴方の方が長持ちしてた。
そして、何度目かの秋。
落葉を踏み締めながら私は一人歩いている。
楽しい事しかなかった恋は、ある日突然終わりを告げた。
「ごめん」
たったこれだけの短いメール。それっきり貴方はどこかに行ってしまった。
秋に始まった私の恋は、何の前触れも無く終わった。
不思議と寂しいとは感じなかった。
私も、貴方も、きっと〝恋愛ごっこ〟がしたかっただけ。本当は貴方がいなくても、私がいなくても、私達はお互いに生きていける。それが分かっていた二人だった。
空を見上げる。
赤い葉っぱの間から、いやに澄みきった空が見えた。
「綺麗だね」
貴方もきっとどこかでこの空を見上げているのだろう。それはきっと、間違いない。
それだけで、良かった。
END
「秋恋」
9/21/2024, 10:33:17 PM