美佐野

Open App

(二次創作)(星空の下で)

 星の綺麗な夜だった。
 ひとつひとつの存在感がはっきりしていて、まるで瓶にいっぱいの宝石を溢したようだ。月も出ているのに、すっかりそちらが添え物になっている。一年の多くを雪雲に覆われているこの地で、今日のような夜空は久しぶりだった。
「…………」
 カーテンを開け放った窓からは、冷気が静かに漂ってくる。メアリィは、それでも夜空から視線を外さなかった。
 ふと想起されたのは、幼い頃の思い出だ。イミルでは、年に数回、流星群が見られる日がある。それまで振り続けていた雪が朝からぱったり止まった日の夜、それは見られる。流星群に願いを掛けると叶うと信じられており、幼き日のメアリィもまた、願いをかけた。
――大きくなったら、アレクスのお嫁さんにして。
「アレクス……」
 父の弟子であり、従兄であり、かつて父が拾ってきた居候でもあった男だ。灯台を守る使命を持ちながら、ある日いきなり消息を断ち、再開した時は一族を裏切っていた。小さい頃の自分は、アレクスを慕っていた。きっと今だって、無邪気に慕う気持ちは残っている。黄金の太陽現象を起こしてからまた、行方知れずとなったが、今頃どこを歩いているのだろうか。
(裏切り者――なんて、世界にとってはそれが正しかったのだけれど)
 あの神は"アレクスは助からない"と告げたが、真偽の程は確かめようがない。
 物思いに耽っていたメアリィを現実に戻したのは、アレクスではない男だった。
「身体に障るよ、メアリィさん。君一人の身体じゃないんだし」
「あなた」
 カーテンが閉められ、星空の景観は失われた。ふわりとブランケットが肩に掛けられ、ひとときの温かさを得る。
「何を考えていたんだい?星空に吸い込まれそうだった」
 夫に尋ねられ、メアリィは微笑んだ。
「初恋の相手のことを」
「えぇっ?」
 目に見えて焦るこの人は、あの旅に出る前からメアリィのことを好いていたらしい。その真っすぐさは面映くも、嬉しくもあった。

4/6/2024, 8:42:48 PM