「贈り物の中身」
贈り物。
大切で
柔らかくて。
その中には、優しさそのものが入っているのだと。
そう、思うのだ。
僕は天使だ。
いや、正確にいうのならば
天使になりたい死者
というべきだろうか。
僕には姉がいた。
親が早々に死んでしまった僕にとって、信頼できたのは、姉だけだった。
ずっと大好きだった。
ずっと、一緒にいられると思っていた。
ああ
なんであの日、
僕はお姉ちゃんの言うことを聞かなかったんだろう。
あの日は、姉と珍しく喧嘩した日だった。
孤児院でもらったご飯が食べたくなくて、
思わず蹴っ飛ばしてだめにしてしまったのだ。
食べ物を粗末にしてはいけないと僕を叱りながら、手を繋いで歩いていた
そんな姉が鬱陶しくて
思わず、手を引っ張って走り出してしまったのだ。
その先は、よく覚えていない。
猛スピードで突っ込んでくるトレックのブレーキ音
どこかに飛ばされる感覚
周りの人のざわめき
そして何よりも
姉が泣きながら、
僕の元に駆け寄って体を抱く姿。
姉の腕も怪我をして、真っ赤に染まっていたのに。
きっと痛いだろうに。
ごめんね、ごめんねと泣きながら僕を抱いていた。
大丈夫だよ、と
ごめん、と言いたいのに。
僕の口は開かない。
結局、僕は姉に抱かれたまま、
交差点の真ん中で生き絶えた。
それから僕は死者になった。
姉はずっと病室で泣いている。
ごめんね、ごめんねと泣いている。
ごめんは僕の方なのに。
会って謝りたいのに。
だから。
僕は天使になりたいんだ。
天使になって、姉を迎えに行きたかった。
もう苦しくないよ。
痛くないよと姉を救うのが、僕の望みだった。
でも。
どんなに願っても、
僕の背中に翼は生えちゃくれない。
泣き出したかった。
消えてしまいたかった。
どうしようもなくなり、目の前の砂を蹴り飛ばす。
「あれ、これは、、、」
砂の中から、四角い何かが顔を出した。
これは、、、録音機?
冥界録音機
これは死者から生者に想いを伝える録音機です。
大好きなあの人に、1人残したあの人に、言い忘れた最後のメッセージを伝えられます
冥界録音機?
つまりこれを使えば、
大好きな姉に言葉を伝えることが、、、。
でも。
僕はいったい何を言えばいいんだろう。
僕がごめんねを伝えることを、
姉は望むんだろうか?
喜んでくれるんだろうか?
その時
姉の一言が、
頭をよぎった。
『レイの歌声って、とっても綺麗
あなたの歌があれば、どんな想いも伝わる気がする
世界でいちばんの贈り物だわ』
そうだ
歌なら。
もう、僕の心に迷いはなかった。
すぐさま録音機のスイッチを入れ、
心の限りを歌に灯す。
僕の願いはただ一つ。
姉に生きて欲しい
幸せになってほしい。
それだけだから。
録音機を、姉の病室の窓にそっと置く。
これが僕の、人生で最後の贈り物。
その中の想いに、姉が気づいてくれることを
姉が幸せであることを願って
僕は、空に溶けていった
12/2/2025, 3:51:21 PM