君と飛び立つ。
ぎぃぃぃ
この天界の入口のような青空とは不釣り合いな
鈍い錆びた扉の音がひびいた。
何もかも捨てたくなった時は僕はいつも屋上に来ていた。
そうすれば、女神様の微笑みが見えたような余裕ができたからなんだ。
いつもは独りで気分が良かったけど、今回は先客がいて
少し気まづかった。
いつも通り柵から4、5歩離れて深呼吸をする。
すぅぅ、はぁa「ねぇ、きみ」
さっき言った先客が話しかけてきた。
生憎僕は1人が好きだから話しかけられるのは想定外で
少し戸惑った。
そんな僕をほっておいて、先客は続けて言った。
「君、シにたいの?」
は?
何言ってんだって考えていることが先客には筒抜けなのか、
酷く可笑しそうに、可愛らしく天使のように微笑んだ。
「ふふ、急にごめんね」
「い、いや!だい、大丈夫!ぼ、俺は別に死にたいなんて気持ちはないよ」
先程の返事をした瞬間先客のカノジョは下を向いて目に光を宿さなかった。
その姿はまるで、
まるで、女神を親の仇にほど憎んでいるような
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎︎ 暗い顔だった。
「そう、そっか。そうだよね」
さっきの暗い顔とは程遠くまた天使のような微笑みを僕にみせた。
お互い話すことが無くなったのか、少し冷たい空気が流れている。
2人の頭を女神が撫でるように風が飛んできた。
そんな冷たい空気がやっと暖かい空気になりそうだ。
彼女が何か言いたげに潤んだ目をこちらに向けた。
「わたし、キミのことがスキって言ったら困る、かな?」
。えっ
えっ えっ えっ えっ
「俺も!俺も、君の事が、ずっと、気になって、たょ」
そう返した僕は少し不安になってカノジョをふと見ると
そこにカノジョはいなかった。
「は、?」
酷く乾いた声が聞こえた。それは僕の声だった。
酷く、屋上に独りの声が響く。
女神なんて最初からいなかったような曇り空を
独り眺める。
カノジョは、最初から、
居なかったんだ__俺が、僕が気付けてたら__。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ #4 ︎ ︎ ︎ ︎ ︎MERY BAD END
少し古い液晶に文字が浮かび上がる。
その画面に反射するように独りの男が写る。
酷く腹を立てているような、血相を変えて画面を睨んでいる。
男の部屋には何十体、何百体とも先程のカノジョが飾られているようだ。
その中の1つは酷く脆くなってしまっているが、買い換えるつもりは無いようだ。
「なんだよ"金返せよ!俺の、俺の俺の俺の!!!カノジョを返せよ"!!!クソ"ゲー!!」
先程まで静かだった部屋が嘘だったかのような絶叫が部屋を駆け巡る。
今にも喉が枯れ裂けそうな熱愛を叫んでいる。
「カノジョと"の、2人の"!明るい未来を"!!描いていたのに、!!!!!」
「ふざけん"じゃ」ビチチチチチ
さっきの絶叫とは変わってまた静かになった。
その部屋に1人の女が電話をしながら訪れた。
「えぇ、やっと死にました。ありがとうございました。えぇ、はい、」
その場から13分が経ったころだろうか。
そろそろ話が終わりそうだ。
「えぇ、はい。本当にありがとうございました。」
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎「女神の微笑み屋さん。」
その女は満足気にその場を舐めまわすように見て、
誰が見ても、素敵だと言える微笑みをし
部屋を後にした。
ぴきぃ
1枚の鏡が割れたことも知らずに。
8/21/2025, 3:48:51 PM