Ryu

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「すみません、道を尋ねたいんですが」
「ああ、いいですよ。どちらまで?」
「ヤマゾエさんのお宅、分かります?」
「ヤマゾエ…ああ、あの丘の上の。あそこなら分かりやすいですよ。ほら、ちょっとここからも見えてる」
「あれですか。すごい豪邸だな」
「お知り合いではないんですか?セールスとか?教えちゃマズかったかな」
「いや、そんなんじゃないです。ちょっとあの家のご主人をね、始末するように頼まれまして」
「始末…?…え?」
「そういう依頼があるんですよ。その依頼を受ける仕事もね」
「依頼って…またまた、人を担ごうってんですか?」
「あなたを担いでどーなるってんですか。あなたがターゲットならともかく」
「ターゲット…」
「それでは、ごきげんよう。くれぐれも、私のことは他言しないでくださいね。自分のために仕事をしたくはないですからね」
あくまでも冷静なその男は、私に背を向けて去っていった。
私は立ち尽くす。夕暮れが迫る。

あれから一週間が経つが、近所で殺人事件があったというような話は聞かない。
そりゃ、そーだよな。やっぱり担がれたのか。
でも、私はヤマゾエさんの家族構成も知らない。
奥さんと二人暮らしだったら?
その奥さんが…依頼人だったら?
バカなことを考えてしまう。

本当に、あんな仕事を引き受ける人間がいるのだろうか。
だとしたら、私はもう顔見知りだ。
もし、どこかで出会ったら、私が仕事を頼むことも出来るのだろうか。
最近、妻の浮気を知った。
もう何年も続けていたらしい。
いや、だからといって妻をどうしようとは考えていないが…。

私は、あの日からずっと、微熱が続いている。

11/26/2024, 12:48:45 PM