かたいなか

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「丁度ひとつ、ごめんねエピソードが有るわ」
数週間前の話だけどな。某所在住物書きは前置いて、椅子に腰掛け話し始めた。
「車運転してたら、対向車がパッシングしてきたの。進行方向確認したら、『あっ、察し』よな。
で、いつも以上に安全運転してたら、ガンガン飛ばして俺に追いついてきた後続車両がバチクソ危険な運転で、詰めて追い越して急ブレーキして、急発進な。
……全〜部見られてたのよ。おまわりさんに。見晴らしの良いゆるやかなカーブだったから……」

ごめんねナラズモノ中年さん。アンタを煽りたくて安全運転してたんじゃねえの。「ネズミ捕り」がその先で臨時のサイン会開催してたのよ。
物書きはため息を吐き当時を懐かしみ、ぽつり。
「あおり運転ダメ絶対」

――――――

かつて物書きであった社会人、元薔薇物語作家で現在概念アクセサリー職人の彼女は、今日も昔の同志と共に束の間のボイスチャットを楽しんでいた。
「スマホの画像整理してたら昔の絵が出てきたの」
『昔って?』
「呟きに創作垢作ってた頃。まだカイシャクガー爆撃食らってなかった頃」
『わぁ。懐かし』
いわゆる「作業通話」の様相。1円玉ほどの小さな円に、デフォルメしたブタクサやらイネやらヨモギやらを描き、花粉っぽく金のパウダーを散らす。
それを駐車禁止の標識よろしく赤い円と斜線で縁取り、裏にスナップボタンの凸パーツを接着剤で貼り付け、レジンで補強してできあがり。
花粉症アイコンなマスクピアスである。
ピアスには別途、カニカンで好きなチャームを噛ませられるよう、丸カンが付けられた。

「丁度さ。爆撃の前の日に完成した絵だったの」
スナップボタンの接着具合、丸カンの強度を念入りに確認して、元物書き乙女は懐かしげに語った。
「それから芋づるで、呟きに上げてなかった絵と小説が出てきてさ。懐かしくなっちゃって」
すごいよね。何年前の遺物っていう。
付け足す乙女は丸カンに、テストとして己の推しカプカラーである、黒と白のビーズをぶら下げた。
「バチクソ黒歴史だけどさ。それでもごめんねって」

『「ごめんね」って?』
「呟きにもサイトにも載せられなくてって。どこにも出してあげられなくて、ごめんねって」
『でも仕方ないよ。過激派はどこまでいっても過激派だもん。目をつけられたら、そりゃ、ああなるよ。垢消してトンズラ以外、方法無いよ』
「それね。ホントそれね」
『多分過激派はさ。自分の解釈以外全部アレルギーなんだよ。重篤なやつ。自衛すりゃ良いのにさ』
「それねー……」

解釈違いも、花粉症とマスクとか、アレルギーと舌下療法とかみたいに、予防だの何だのできれば良いのにね。難しいね。
かつて互いに推しとセンシティブを語り合った物書き乙女ふたりは、その後も懐かしく1時間程度、昔々の二次創作を、その思い出を語り合った。

5/30/2023, 3:23:28 AM