セイ

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【君と最後に会った日】

君と最後に会った日。
僕は昨日の出来事のようにまだ鮮明に覚えている。
ギラギラと輝く太陽が肌を焼き付け、蝉たちが異常なまでに大合唱していたあの夏を。

アイス片手に塾へと向かう途中、反対側の歩道で信号待ちをしていた君を見つけた。
君は僕に気づくと満面の笑みで手を振っていた。

信号が青に変わり、渡ろうと1歩踏み出した君。
僕は溶けたアイスに気を取られて君から一瞬、目を離してしまった。

もう一度君の方を向こうとした時には「ドンッ」という何か大きなものがぶつかったような音と急ブレーキ音。
バッと顔を向けるとそこに君は居なくて。
代わりに少し離れた場所で「ガツン、ガツン、ガタガタガタッ」という音と共に塀に突っ込んでいる大型トラックと地面を紅く染め上げるナニカ。

周囲を見渡すと何か大きな物がトラックの側に転がっていた。
ダッシュで近寄るとソレは真っ赤に染まった君だった。
頭部は半分ぐらい粉砕、手足はあらぬ方向へ曲がっていて、心臓は脈を打っていない。
息がないことは明白であった。
だが、まだ助かるかもしれないと君を抱きかかえ、震える手で救急車を呼んだ。
救急車が到着する頃には僕の服は君の血で真っ赤になっていた。

…君は助からなかった。

君の葬式は気づいたら終わっていた。
君の家族も、暫くしたら笑顔を見せるようになった。
死んだらこんなにもアッサリしているのかと実感させられてしまった。

僕は毎日あの場所に足を運んだ。
君が大好きだった青の胡蝶蘭を供え、手を合わせ続けた。

心にポッカリと穴が空いた僕はずっとあの夏に取り残されたままだ。
今までも、そしてこれからも。

6/26/2024, 8:57:44 PM