【言葉はいらない、ただ…】
コンビ芸人の光が私の目を刺す。
「いやでも、言葉が無くなったらホント大変ですよね」
薄暗くなってきた部屋で唯一テレビの光が、私の目を刺している。
「おお、お前ナンパできんくなるもんな?」
これは面白いのだろうか、観客の反応が見てみたい。
「いや俺、どんな奴だと思われまてますの?」
「ナンパくらい、喋らんくてもできます」
「あナンパは否定せえへんのや」
ウケたようだ。笑う観客が見えた。
「皆さん観ててくださいね、
無言でも華麗にナンパして見せます」
芸人の過剰な口パクと
ジェスチャーによるナンパが始まった。
口パクは変顔のようになってきて、
終いにはただ頭のおかしい人になってしまった。
その動きがあまりにおかしくて、少し吹き出した。
そして最後に、
「お姉さん、お茶でもどうですか!?」
「いや結局声出しとるやんけ」
観客が弾けるように笑っている。
つられて私も笑う。
生まれつき耳が聞こえないので、
彼らが何を言っているのかは分からない。
だが私は、漫才を観て笑っている。
笑えている。あの観客と同じように。
それを確かめて、なんか暗かったので、
部屋の電気をつけた。
8/30/2024, 12:17:19 AM