No.4『理想のあなた』
私の理想のあなたは何があっても泣かない人──。
私は泣く人が苦手だった。
泣く人を前にすると私も泣きたくなったから。私は笑顔でいないといけないのに。
私の理想をあなたに伝えた時からあなたは泣かなくなった。
私はいつも白いベッドの上から、笑顔のあなたを見た。
そんな私の腕や体にはいくつもの線が繋がっていた。
いつしか体は動かなくなった。唯一動かせる目を動かしてあなたを見ると、相変わらずあなたは私の理想のままでいてくれた。
指すら一ミリも動かない。息さえ上手く吸えない。ああ、もう終わりなんだなと本能的に悟る。
悟ってしまった瞬間、あなたを見た。あなたは泣いていた。
「ごめんっ…君の理想のままで見送れなくて…っ……」
そう言いながら泣いていた。
その言葉を聞いて、自分の目にどんどん涙が溜まっていくことに気づいた。
──笑顔で逝きたかった。
──あなたが私を思い出す時、泣き顔じゃなくて笑顔を思い出して欲しかった。
──最期に見るあなたの表情は笑顔が良かった。
だけど…と思ってしまう。
私の死に涙してくれてありがとう。余命がある私を愛し続けてくれてありがとう。
理想のあなたは深く強く私の中に残っています──。
5/20/2024, 12:40:35 PM