白眼野 りゅー

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「ね、君の人生で一番甘かったものって何?」

 ぱくり。鮮やかな赤色のトマトを口に放り込みながら、君はそんなことを言った。


【主観的sweet memories】


「……急に何?」
「いや、期末の結果がよかったから、どうせなら自分へのご褒美に、とびっきり甘いものが食べたいなって」
「なるほど……」

 弁当箱の中のミートボールを箸でつつきながら、少し考えてみる。スイーツ好きの君と違って、僕はそういうものには詳しくないのだけれど……。

「……あ」
「思い浮かんだ? なになに?」
「これ」

 と、僕はミートボールの隣に納められていた、卵焼きを箸でつまんだ。

「……え」
「君が作ってくれる、世界で一番おいしい卵焼き」
「もう、君はすぐそういうことを……。じゃなくて、いや、その卵焼きは……」
「僕が卵焼きはしょっぱいの派だって伝えたら、自分は甘いの派なのにわざわざ作り方調べてくれた卵焼き」
「……」
「『自分のやつのついでだから』って言うくせに、君の弁当箱に入ってるのとは違う味付けの卵焼き」
「……何のつもり?」

 そんな言い方は心外だ。僕がらしくもなく、こんなキザったらしい……甘い言葉を口にしているというのに。

「…………つまり君は、その卵焼きは口に合わないと言いたいわけだね?」
「え!? いや、そうじゃなくて……」
「君はしょっぱいの派だもんねえ。私が甘い卵焼きしか作れなくて申し訳ないねえ」
「ねえ、意味わかってて言ってるよね?」

 ……慣れないことをするものではないな。

「ちなみにね」

 一足先に弁当を食べ終えた君が立ち上がり、こちらを振り返って言った。

「私の人生で一番甘かったのはね、部活や委員会なんかで学校を出るのが遅れる君を待ちながらカフェで飲む、ブラックのホットコーヒー」

 君は笑う。とびきり甘い笑顔で。

「……それは、人の金で飲むコーヒーは蜜の味ってこと?」
「え!?」
「そっかあ。僕を待ってくれてるんだからお代くらいはって今まで思ってたけど、そういうことを言うんなら今度からはやめにしようかな」
「……慣れないことをするものではないね」

 僕も弁当を食べ終え、立ち上がって君の隣に並んだ。

「やっぱり甘いものは口に入れるものであって、口から出すものじゃないね」
「同感。私、あのカフェでパフェ食べようかな」
「いいんじゃない?」

 二人横並びで、昇降口へと歩き出す。

5/2/2025, 11:25:11 AM