雨に打たれながら、一人砂浜を歩く.
大地を蹴るその足は重い。
いつもの歩く道なのに、今日ばかりは足を取られる。
今日僕は背中に背負っていた大切な物を失った。
失うということは、こんなにも辛いものか。
この世に生を受けて初めて知った喪失感は、酷く僕の心を蝕む。
敗者は失い、勝者は得る。
それはこの世の習い。
常に奪う側だった僕は、これからもそうだと信じて疑わなかった。
さっき、奪われるまでは……
かつて自分は大きなものを背負っていた。
仲間たちからは羨望の目で見られ、とてもいい気分だった。
だが今はどうだ。
僕を心配してくれる奴すらいない。
結局のところ、僕が背負っていたものしか見えていなかったのだろう。
価値があるのは僕ではなく、僕が背負っていたものだったのだ。
みんな僕の事を見ていなかったのだ。
自分はこれからどうなるのだろう?
先行きが見えないことに、恐怖を感じる。
早く背負うものを探さないと。
でも、そんな都合よくあるわけが……
おや、僕の高性能な目が、遠くの方でキラリ光るものを捉える
遠くにあるもの。
それはいい感じの貝殻。
全身の血が沸き上がる。
他のやつに取られる前に、アレを僕の物にしなくては!
僕は大急ぎで貝殻の元に駆け寄る。
近くで見ると想像以上にいい貝殻だ。
これほどの貝殻、他のやつらに取られてはたまらない。
早く用を済ませよう。
まずは中を点検。
うん、変な虫はいない。
大きさは『前の』よりも少し大きいくらい。
形も文句なし。
この貝殻の評価は星五つ、最高だ。
早速背負ってみよう。
ここをこうして……
完成。
数刻ぶりに感じる背中の重みに、僕は安心感を覚える。
さっきのまでの不安が嘘のように、僕の心は晴れ渡っている。
やっぱり貝殻を背負ってなければ様にならない
だって僕はヤドカリだからね
9/11/2024, 1:32:07 PM