香草

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足を引きずりながら帰路に着く。
今日も誰にも褒められない労働をし、寿命を削り取られるような人に出会い、身も心もボロボロだった。
暗い田舎道。砂利の音が自分が今歩いているということを示してくれている。
人は寝静まり鳥の声しか聞こえない。
いつのまにか自分の口から絞り出すような泣き声が漏れる。
悲鳴にも似た音は冷たい空気を揺らし孤独感を増幅させる。
家に帰っても温かく迎えてくれる人はいない。
食べ物も豊かな暮らしも手に入れられる現代で、こんなにもひもじく悲しい思いをしているのは私だけだろう。悲劇のヒロインとしてでも主人公にしてもらわないと報われない。
頬に涙がつたい、冷たい風が容赦なく吹きつける。

ふと立ち止まってしまおうかと考えた。
歩みを止めたら冷たい風に吹かれることも悲しい思いをすることもない。
周りが歩いているから何となく歩いてきたが、私はここでリタイアしても許されるのではないだろうか。
足の運びが遅くなった時だった。
空が白み始め、目の前が明るくなった。
遠くの山の影が見え始めた。
鳥が翼をはためかせて飛んでいく。
どこからか人が動き始める気配がする。
自分の息が白くなっているのに気付いた。
涙はいつのまにか乾いて、風が止んだ。
その瞬間強い光が体を包み込んだ。
全てのものが色づき、光や熱を求めて必死に背筋を伸ばす。
夜明けの一番暗い時間を超えた。
私はまた歩き出した。

1/4/2025, 10:11:29 AM