たぬたぬちゃがま

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「天体観測はな、本当は冬がいいんだ。」
望遠鏡を覗き込んでいたら、彼が教えてくれた。
「空気が澄んでるっていうのかな。星が綺麗に見えるんだ。」
「夏の自由研究のイメージありましたけど、そうなんですね。」
子供の頃、家族を巻き込んで空を見上げたのを思い出す。星座図を見ながら目当ての星座を探すも見つからず、姉と喧嘩になったのも芋づる式に思い出し苦笑した。
「……姉と喧嘩したことでも思い出したか。」
「なんでもお見通しですね、そのとおりです。」
「俺も弟と喧嘩したからな。」
どこの家でもやるんだな、と2人でくすくす笑う。
「ほら、あれが織姫と彦星だ。」
あれは肉眼でも見える、と指差した先には大きな三角形。学校でも真っ先に教えられる星座だ。そして、星座に関わる物語で最も有名なもののひとつでもある。
「私たちは離れませんよね。」
ぽつりと呟くと、彼は笑いながら頭を撫でてきた。
「あれはおとぎ話だろ?俺たちを離すやつなんかいねえよ。」
まるで子供をあやすような口調に、安心すると同時に少し不満になる。その感情が伝わったのか、彼はクックッと笑った。
「冬も一緒に見よう。本当に綺麗なんだ。」
その言葉に返事をする代わりに、彼の胸に飛び込み抱きしめた。


【星を追いかけて】

7/22/2025, 3:52:05 AM