子どもの頃からずっと、貝殻を集めている。
べつに海洋生物が好きというわけでもない。それでも海に行けば海水浴そっちのけで貝をさがした。日曜日に連れていってもらった水族館でも、水槽に張りついたきょうだいをよそに展示室の標本をながめてばかりいた。きらきら光る魚はどこか落ち着かない。それよりも、からからに乾いてラムネ菓子くらいの重さしかないような貝のほうがずっと興味深かった。退屈しないの、と聞かれたこともある。とんでもない。あれでなかなかアバンギャルドな奴もいて、ゴーギャンイモガイというヘンテコな名前の貝を見つけたときは衝撃のあまり写真を撮った(※本当にいます)。
このちいさな炭酸マグネシウムの集合体の、どこにそんな求心力があるのかわからない。
ひとり暮らしを始めた私のアパートに来た母は、金魚の水槽に飾られた色とりどりの貝殻を見てため息をつくように、
あんたそのうち化石になるよ。
なんて冗談とも脅しともつかないことを言った。
それでもいいのだ。
きっと私は千年前も千年先も、ここでこうして貝をながめている。
(1000年先も)
2/4/2024, 7:30:39 AM