私は再び旅に出ることにした。ここでの生活に不満があるわけではなかったが、目の前の道しるべに導かれるようにして、この地を後にした。
旅を続けていると、不意に視界に入ってきたものがあった。もう何年も帰っていない、それでいて見慣れた実家だった。小さな庭に面した縁側に、盲目の老人が座っている─父は、誰かを待っているように見えた。
道しるべは家を通りすぎて、ずっと向こうの方まで続いている。目を凝らして見てみたが、その行き着く先は分からなかった。
私は少し逡巡して、おもむろにハサミを取り出した。かの地で出会った変わり者の友人に別れを告げに行ったとき、もしもの時のために、とその友人がくれたものだ。まさか本当に役に立つときが来るとは。私は目の前にのびる、いつか見たような糸を切った。
この道の先に、もっと別の未来があったのだとしても、私は老いた父のもとに戻る決断をしたことを、決して悔いはしないだろう。
(この道の先に)
7/4/2023, 2:31:09 AM