三上優記

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 天気予報じゃ晴れだって言ってたのに! ライブの後の空模様は最悪で。軒下にいた伊脇さんは困り顔で頭をかいた。キーボードは大事な商売道具。濡らすわけにはいかない。
「傘買ってきますよ。そこにコンビニあるんでひとっ走り」
「ごめんね、星河君。ありがと」
 僕は雨の中を駆け抜けて目の前にあるコンビニに入り、傘を買って伊脇さんの元へ戻った。
「これで大丈夫かな。ほら、どうぞ」
 僕は傘を指して伊脇さんを手招きする。
「ありがとう。僕みたいなおじさんが相手で悪いけど、相合傘としゃれこもっか」
 キーボードを大事そうに抱えた伊脇さんが僕の隣にやってくる。

「相合傘って、好きな人同士で入った時より多く濡れた方が好き、って噂がありますよ」
「そうなの? だとしたら星河君の方が好きってことになるね。……ね、嫌かもしれないけど、もう少し近づきなよ。凄い濡れてるよ」
「もうだいぶぎゅうぎゅうですけどね……あはは」
 僕の肩の辺りはすっかりびしょ濡れで、もう手遅れな気もしたが、好意に甘えて身を寄せた。
「おじさんに近寄りたくないのは分かるけどね……大丈夫、僕変な臭いとかしないよね?」
「大丈夫ですよ、全然。でも僕よりキーボード濡らすわけには行きませんから」
 しっかり彼を守ったお陰か、キーボードも伊脇さんも全く濡れていない。
(噂、もしかしたらあってるかも……なんて)
「あ、でもほら! 晴れてきたよ!」
 彼が指さした先、少し向こうの空では雲の切れ間から光が差し込んできていた。
「なら、向こうに走りますか。伊脇さん走れます?」
「キーボードあるから、ちょっとだけなら」
 傘を持って2人雲の切れ間に向かって走り出した。

3/25/2023, 5:24:24 AM