喜村

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 どうしようか、今の時代に瓶に手紙を入れて海に放り投げるという行為をしている人はいるのだろうか。
 目の前には夕陽が沈みそうになっている。キラキラした波に赤い太陽の光があたって、宝石のようだ。
 昔の漫画や映画で、瓶の中に手紙を入れて、それを海に投げてうち上がって……なんてものを見た。
 なんて素敵なんだろう、と思い私もそれを真似てみたのだ。
 昔には、同じような風船に手紙をつけて飛ばしてみたけれど、返事はまだない。

 手紙の内容は友達がほしい、返事をください。

 書いて、瓶に詰めて、いざ海について、今の時代、海のゴミ扱いになるのでは、と躊躇っていたところである。
 よくよく考えると、砂浜から投げた所で、波でそのまま砂浜に戻ってくるかもしれない。沖合いからやって漂うものなのかもしれない。
 ……もし、砂浜に戻ってきたら、諦めて回収して帰ろう。
 私は燃えるような太陽に向かって手紙の入った瓶を思いっきり投げた。
 ポシャンと水中へ、そして瓶は浮き上がってきた。
 赤い波を手紙は漂う。
 私の手紙は波にさらわれてしまった。

「行っちゃった……」

 赤く煌めくそれを見ながら、私は小さく呟いた。
 波にさらわれた手紙は、どこかの誰かに届いて友達になってくれるだろうか。



【波にさらわれた手紙】

8/3/2025, 6:18:59 AM