「きっと明日も」
最近気づいたことがある。前から4番目、右から2列目の席の視線。
「……で、この時代、ビザンツとオスマン、さらには神聖ローマなんてでかい国が同時に存在してたわけです。けど1492年、オスマンがビザンツを滅ぼします。ちなみにこの年号見覚えのある人おる?……そう、コロンブスが新大陸を見つけたっていうのと一緒の年なわけなんです。覚えやすいでしょ?」
板書して生徒たちを振り返ると、みんな一斉にプリントに写していく。前から4番目、右から2列目も同じ。
再び黒板に向くと、ああ、まただ。背中に感じるなにか。
「このときオスマンはめっちゃ強かったわけですが、このあとヨーロッパ連合軍も破ります。この戦いはこないだちらっと紹介だけしてんけど、覚えてる?」
振り返る。板書のない今は、みんなわたしのほうを見て授業を受けている。
目が合いかけた。
だめだ。
ちょうどなのか今さらなのか。前から4番目、右から2列目の席の視線に気がついてしまった。おそらく隠そうとして隠しきれない、なにか熱の込もったような視線。
わたしは知らないふりをする。
昨日も今日も、きっと明日も。
『彼女と先生』
10/1/2024, 1:03:43 AM