「ねぇ〜ママ、いいでしょ?きょうだけ。だってみーちゃんは、おゆうぎかいも、はいしゃさんもハミガキもがんばってるよ。」
4歳になる娘に虫歯が見つかったので、大好きなチョコレートを禁止して一ヶ月。
今日は園のお遊戯会だった。
孫の活躍を楽しみに張り切って見に来た義母が、娘にご褒美を持ってきた。
かわいい動物のパッケージのそれは、娘が大好きなチョコレートだ。
「やったー!ばあばありがとう!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ娘。
その場はなんとか誤魔化して家まで持ち帰ってきたが、彼女がそれを忘れるわけがない。
それで懇願されているわけだ。
まだ治療中だし、できれば食べさせたくないけど…
頑張って歯科にも行ってるしな…義母もせっかく買ってきてくれたしな…
「じゃあみーちゃん、今日はお遊戯会頑張ったし、歯医者さんも歯磨きも頑張ってるから、今日は特別ね。一個だけにしようね。」
私が話終わるより前に娘は満面の笑顔になり、チョコレートが置いてあるテーブルまで走っていく。
箱からチョコレートを一つ出して娘の手のひらに乗せると、早速口の中に放り込み
「おいひ〜」
と、笑顔をこぼす。
その素直な笑顔を見て、
まあ今日だけはいっかと、私の顔もほころんだ。
******
ここまで書いて、大きくため息を吐く。
“今日だけ許して”かぁ…
リカは、持っていたスマホをベッドに放り投げ、ゴロンと仰向けになり天井を見る。
“なんか書いてみようと思って始めたけど、毎日のお題がけっこう思いつかないよな。若ければもっと思いついたのかなぁ。”
“だいたいさ、今日だけ許してなんて、お題が不埒なことばかり思いついちゃうし、それ以外だと食べ物のことくらいしか案が出てこないわ”
“甘いものを自分で禁止してもすぐ許して食べちゃゃうし、だいたい全部許しちゃうし。今日のお題はなんだか気まずかったわ”
“はぁ。でもなんとか書けたからいいや。だいたいこれだって見られてるかもわからないし。書く練習だし”
しばらく天井を見つめて今日のお題の反省会をしていたリカはハッと思い出したように起き上がる。
“そうだ!冷蔵庫にエクレアがあったんだ。あんまりお腹空いてないけど…書くこと頑張ってるし…食べちゃおうかな!”
そうと決まれば冷蔵庫に足早に向かう。
“だってお題がそうなんだから、私だってやっていいよね。今日だけ許して…”
「今日だけ許して」
10/5/2025, 10:08:25 AM