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この世界は


「椛さぁ〜ん、ご飯ができましたよ〜。」
管理人さんの声がする。いい匂い…今日は炊き込みご飯かな?
「はーい、今行きます!」
家を出て彷徨っていた私を受け入れ、温かいご飯をくれた管理人さん。私は今、民宿「ぽんすけ」でお世話になっている。事の発端は2週間前──

ぐぅぅぅぅきゅるるるる……
「お、お腹空いたぁ…。死んでしまう…。」
スーツケースをゴロゴロ引きながら、私は行く宛てもなく彷徨っていた。昔から運が悪い方ではあったけど、財布を落とすなんて…。おかげで交通機関は使えないし、ご飯は買えないし…!!空腹は限界を迎えている。
「もう、だめだぁ…。」
目の前が真っ白になって、私の意識はぷつんと途切れた。
ふわっと出汁の香りに釣られて目を覚ました。
「いい匂い…」
って、あれ?布団で寝てる…?そんで、ここどこよ?
ガバッと起き上がり、あたりをキョロキョロ見回す。古そうだが掃除の行き届いた和室だ…。なんか落ち着くなぁ。ん?障子の向こう側に人影が見える。
「あの、そこに誰かいますか?」
人影がビクッと動いた。おそるおそるといった様子で障子が開けられる。おっとりとした垂れ目が優しそうな印象を持たせる少しふくよかな若い男性だった。手に持ったお盆からいい匂いがしてくる。
その人はその場で座り込むと、私の方へお盆を寄せた。お盆にはほかほかと湯気をたてるご飯とお味噌汁、漬物や煮物なんかが載せられていた。
「美味しそう…!」
ぐぅぅぅぅきゅるる…。
「ふふ、どうぞ、食べていいよ。」
うう、お腹の音笑われちゃった…。
「あ、ありがとうございます…いただきます…。」
恥ずかしい気持ちはあるが、こんなに美味しそうなご飯、逃せない…!バッと箸を掴んで味噌汁から口に入れた。
「美味しい〜っ!」
美味しすぎて涙が出そう…空腹に味噌汁…効くなぁ。
ガッガッとご飯を食べ進める私を、男の人はにこにこと微笑みながら見守っていた。
「ご馳走様でした!」
「良い食べっぷりでしたね。」
「とても美味しかったです…!!本当にありがとうございます。ところで、ここはどこであなたは誰ですか?」
「当然の疑問ですね。ここは民宿ぽんすけで、私は管理人をやっています。あなたはここの前で倒れていたので私がここに運ばせて頂きました。一日一善、誰かのためにが私の信条です。」
ふふんという音が聞こえてきそう。素敵な人だな。…それになんだか面白い人だ。
「管理人さん、この恩は忘れません。何か返したいのですが、あいにく財布を落としてしまってお金が払えないんです。良ければここでタダ働きさせて頂けませんか?」
「そんなそんな、私が勝手にした事ですからお礼などは結構ですよ。しかし…財布を落とされたとは…。うーん…。良ければ、ここで短期で働いてみませんか?お給料は出させてもらいますし、部屋も使ってもらって大丈夫ですので。お金がないとどこに行くにも不便でしょうし。」
「い、いいんですか?!」
「ただ、ここに泊まっている方々は個性が強くってですね…少々手を焼くかもしれません。アルバイトの方を探しているんですが、なかなか定着しないんです。私も働き手が増えると有難いですよ。無理のない範囲でかまいません。よろしくお願いしますね。」
私って、運がいいかも……!なんて優しい世界…この世界と運命に感謝します……!
「まかせてください!」

1/15/2026, 12:39:54 PM