kamo

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64遠い日の記憶

小学五年生の時、友達と体が入れ替わったことがある。
ひどく暑い、夏休みのプールの帰り道、二人で並んで歩いていた時だった。
はっきりとしたきっかけがあったわけではない。
青いビーチサンダルを履いて歩いていたはずだったのに、気づくと白いスニーカーになっていた。
おかしいなと思って顔を上げたら、目の前に自分の顔があった。
それで入れ替わりに気づき「すげー!」と二人で声を上げて、とりあえずはいつも通りに線路わきの通学路を歩いた。
どうするどうする?とりあえずお互いの家に帰る?両親に言う?お前、俺んち帰ってもゲームのセーブデータいじんなよー、宿題はかわりにやれよー。
子供だったし夏休みだったので、特に悲壮感もなくそんな会話をして、しかし踏切で立ち止まって電車を見送り、遮断機が上がった瞬間に、ふっと元に戻ってしまった。
本当に一瞬だ。自分は元通り青いビーチサンダルを履いていて「あれ?」と不思議そうな友達の顔がそこにあった。
時間にしてわずか十分ほど。暑さが見せた幻のようなものかもしれない。二人で「内緒にしておこう」と言い合って別れ、夏休みは変わらずにプールに行った。
本当にそれだけの不思議な体験だが、今でも線路わきを歩いている二人づれの子供を見ると、ふと思い出す。
今年の夏も、誰かと誰かがほんの十分だけ、入れ替わっていたりするかもしれない。

7/18/2023, 9:57:34 AM