セイ

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【1年前】

1年前の夏、恋人ができた。
「天使」と「悪魔」の、敵対種族の、叶うはずのない恋愛だった。

悪魔の僕は昔、悪魔の意に反して人を沢山助けた。
その罰として自慢だった大きな漆黒の翼を1つ失った。

「片翼」は劣等の証。
飛行能力は落ちるし、生まれながらの劣等生や、何か過去に重罪を犯した証。
だから僕は生まれながらに翼を持つ天使や悪魔としてはカッコ悪い奴。

「片翼の悪魔だなんてカッコ悪いだろ?」
「カッコいいよ、自分の気持ちを曲げなかった証じゃん」
「でも、レヴィアちゃんは天使の意に反したことないんだろ?簡単には信じられないって」
僕の言葉に彼女は一瞬困った顔をしてから呟いた。
「…じゃあさ、堕ちる所まで堕ちてあげよっか?」
「…どうせ、それも僕を振り回すための嘘なんだろ?」
「…本気、だから」

彼女は躊躇なくその立派な白銀の翼を1つ剣で切り落としてみせ、その切り落とした翼を拾うと僕の前に突き出した。

「…ね?嘘じゃないでしょ?コレでクリグヴィンス君とお揃いだね」

汗一つ掻かず、ずっとニコニコと笑う彼女に対して僕は若干の恐怖を覚えた。
というのも、翼の付け根には神経が集中してるから尋常じゃない痛みが襲う。
それこそ最低でも1ヶ月は立つことは当然、飲み食いすることすらキツい。
経験した僕だからこそ分かる痛み。
なのに彼女はニコニコと笑って、心の底が見えない瞳で、こちらを見つめている。

切り落とされた翼の付け根からはドクドクと深紅色の血が流れ服を紅く染め上げながら地を濡らし、残った方の白銀の翼が根本からジワジワと悪魔のように黒くなっていくのを僕は見てしまった。


…彼女を堕天させてしまったのは、狂わせてしまったのは僕だ。

僕を愛して、僕を想って、僕を信じて。

それがこの結果。

僕のシナリオ通りになったって訳だ。

…天使ってのは、どいつもこいつもチョロすぎやしないか?

…まぁいいさ。「コレ」は、「オモチャ」は僕だけのモノ。誰にも渡さない。

壊さないように、壊されないように、大事に大事にハコの中に閉まっとかなきゃ。

「クリグヴィンス」なんかに騙される方が悪いんだ。

「…やっぱ僕は何処まで行っても悪魔だな」と呟きながら「レヴィアだったナニカ」を鎖で繋げ直した。

「クリグヴィンス」という名はQuisling(クヴィスリング)をただ入れ変えただけ。
Quisling、つまり「裏切り者」って訳。

最初からだーれも信用してないし、裏切る気満々。

答えを出してるのに気付かないバカ共を時間かけて騙して、僕の「オモチャ」にするのが楽しいんだよ。…1年ぐらいで飽きるけど。
でもまぁ、人なんか助けちまった戒めとして翼を切り落とした甲斐があったわ。


「次はどの子で遊ぼうかな」

6/17/2024, 6:18:10 AM