ロイチ

Open App

まおーさまとハッピーエンド【腐注意】

        * * *

 ついに魔王城へたどり着いた勇者一行。
 双方の仲間が傷つき、倒れ、疲弊していく……。
 そして今、勇者と魔王、たった二人が静寂の中対峙する。
「ここまで長かったな……お互いに」
「そうだな。守るべき者を失い、最早ここからの争いに意味を見出すことさえ難しいが……。それでも我々には必要なのだ、終わりが」
「ああ、同感だ。……いかん、長話は別れが辛くなるな。始めよう」
「いざ」

 ほんの百年前のお話。
 二人の結末を知る者はついぞこの世から居なくなってしまった
――。

        * * *


「はいカーット!OKです!」
「オールアップでーす!」
「お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様です!ありがとうございます!」
「主演のおふたりに花束の贈呈です!」
「わっ、ヒロインちゃん来てくれたの?!」
「ふふ、ずっとスタンバってました。おふたりとも、最っ高のエンディングでした!」
「ありがとう〜!」

 ここは撮影スタジオのファンタジー専門部。たった今、ドラマ『剣の標たち』の撮影が終了したばかり。
「まおさん、おつかれさまです!」
「ああ、ゆうじくんお疲れ様……って、君今回この現場じゃないよね」
「ちょうど休憩入ったんでまおさんにご挨拶を!」
「君も律儀だねえ」
「今回も最高でした!特にラストの憂いを帯びた表情……っ。ほんとに、見つめあった勇者が羨ましいです」
「君、勇者志望で下積みしながらスタッフのアルバイト中だもんね。今回のお相手は何度か一緒になってて、勇者の心構えもしっかりしてる子だから、色々聞いてみたらいいよ。打ち上げも時間があるなら連れてってあげる」
「マジっすか?!やった!まおさんとまだお話したいんで嬉しいッス!」
「僕じゃなくて勇者一行とお話しなね……」

 ここで撮影されているのは、いわゆる実写化ドラマではない。
 役者は全員本物の勇者、剣士、魔法使い、エルフ、魔王たち。台本は実際の冒険譚を元に脚色したもの。
 ファンタジーも飽食の時代。旅に出たり退治したりダンジョン攻略したり、侵略したり支配したり奪ったり、そういった本職に精を出す人間(とそれ以外)もいれば、お茶の間にエンターテインメントを届ける役者の道を選んだ者もいる。
 これがなかなか民衆に受けているのだ。なんせ、CG・VFX一切無しの臨場感溢れる画面。武器やセットに至るまで全てが本物。
 加えて、あまりグロくなく、華々しい。
 ここがかなり重要で、本物の勇者たちに接していればなかなか凄惨な場面に出くわすことも多いのが現実。そこをドラマでは上手いこと隠しつつ演出を加えて「みんなが見たいファンタジー」を提供しているのだ。

「それにしても、うちの業界ほんっとまおさんで保ってるようなモンですよ」
「いやいやそんな……」
「謙遜しないでくださいよ。勇者一行は志願者多いですけど、やっぱ敵対側は少ないじゃないッスか。魔王となるとほんとに数人。やっぱ気難しい人多いし。こないだAスタの大道具スタッフが雷落とされてたの、知ってます?」
「ああ、ドワーフの子だよね。近場にいたから回復したけど、たしか辞めちゃったんだっけ。同業として申し訳ないな……」
「ほらも〜。そんな優しい魔王、まおさんくらいッスよ」
「いや、はは、そう言って貰えるのは嬉しいけどね。領民たちに向いてないから略奪以外で稼いでこいって放られただけなんだよ」
「そっかあ。じゃあ、オレは領民の皆さんに感謝しないと。こうしてまおさんに出会えたワケだし!」
「ゆうじくん……。いっぱい食べな、飲みな。また後でギルド統括部とプロデューサーに挨拶しておこう。僕も早くゆうじくんの勇者姿が見たいもの」
「嬉しいッス!……ところでまおさん、最近お疲れですか?」
「えっ」
「いや、酒進んでないし、ちょっと痩せたかなって。なんとなく目の下にクマあります?さっきはメイクで気づかなかったけど」
「ほんとよく見てるね。……最近、ね、ちょっとシリアスに疲れてるかなって。ドラマとはいえ、やっぱり魔王としての仕事はするじゃない。市民の皆さんからやりすぎだーとか、散歩してたら叱られたり……」
「ええー、いるんスね、ドラマと現実の区別つかない視聴者って!」
「それだけリアルなものをお届けできている証拠だし、役者冥利には尽きるんだけど……。それにほら、魔王が幸せに終わることってなかなか無いでしょ。僕なんか特にイメージ的に悲しく終わることが多くて……たまには平和に幸せなのがいいなって。……ダメだね、こんなこと言ってるから領民から向いてないって言われちゃうんだ」
「まおさん……」
「さっ、飲も飲も!明日からはちょっと空くんだ。ゆうじくんの稽古も付けてあげる!」
「…………はい!」

 それから数ヶ月。まおの元に新たな台本が届いた。
「なになに、今度は…………ん!??」
「魔王さま、如何なさいました」
「だ、だ、大臣、コレは、コレは流石に!」
「お見せ下さい。……ふむ」
「大臣、いやマネージャー!これは流石に領民への示しというかなんというか」
「やりなさい」
「んん!?」
「哀愁系魔王役も飽きられてきた頃です。ここでイメージを一変させておくのも息長く続けるコツでしょう。それに今回は日常系。上手く行けばシリーズ化も見込めます。つまり安定収入!領民たちも大喜び間違いなし!」
「で、で、でも」
「やりなさい」
「はい……」
「それにほら、相手役の勇者さん、魔王さまのお知り合いでしょう」
「え、誰。…………………………うそ」


        * * *

「まおーさま、そんな拗ねてないでこっち来なよ」
「うるさい。我の力を奪ってこのような飼い殺し……早く殺したらどうだ!」
「そんなことしないって何回言わせるの。言ったじゃん?一目惚れって」
「何が悲しくて宿敵勇者に惚れられて拉致されてふたり暮らしせねばならんのだ!屈辱!」
「ごめんね諦めて。俺、一度決めたことは絶対やり遂げるって決めてるんだ。ほら、こっちおいで」
「や、やめろ、触るな!助けて幹部ー!」

        * * *


「はいカーット!OKです!」
「第2週分撮了です!おつかれさまです!」
「お、お疲れ様です……それじゃあ僕はこれで」
「ちょっとまおさん、何一人でそそくさ帰ろうとしてるんスか」
「ゆ、ゆうじくん。でも、その、なんというか。君のデビュー作が……もっと華々しい勇者活躍譚なら」
「なーに言ってるンスか。戦闘シーンが皆無って訳じゃないし、何よりオレはまおさんとご一緒できてほんとに嬉しいッス!」
「ゆうじくん……。ねえ、1個聞いていい?この企画、ゆうじくん持ち込みって、ほんと……?」
「あれ、もうバレてる。そうなんです、やっと勇者資格取って役者応募条件満たして、最終面接でこのドラマの企画書をプレゼンしたんです。そしたら受かりました!」
「そ、それで、相手役も指名したって」
「それはまあ、役柄的に受ける魔王がいなかったのもあると思いますけど」
「どうして……?」
「どうしてって、まおさんが言ったからですよ。たまには平和に幸せにって。ほら、こんなに平和で幸せ!」
「いくら平和だからって、勇者と元魔王のBLドラマってどうかなあ?!」
「需要ならありまくりッスよ。宣伝部も力入ってて、有料コンテンツ用にちょい際どいアナザーストーリーも撮る予定だって」
「ちょい際どいアナザーストーリー!?」
「ね、まおさん、オレとずっと平和に幸せに暮らしましょうね」
「ドラマの話、だよね、ゆうじくん……?」
「オレがちゃんとまおさんをハッピーエンドに連れてってあげますからね!」
「う、うん……?」


 果たしてまおの運命やいかに――!続く!




#ハッピーエンド ……?

3/29/2023, 2:29:39 PM