力を込めて、振りぬく。
一体何を。
何の為に。
何に向けて?
例えばそれは、刀を模った竹かもしれない。
しん、と冷えた空気を切り裂く様に一人振り抜く
そんな事もあるだろう。
例えばそれは、硬い材質の球かもしれない。
ワッ、と歓声と期待を背にして応える様に投げる
そんな事もあるだろう。
例えばそれは、競技としての走りでもある事だ。
脚に力を込めて、誰かの背を置いていく様に走る
そんな事も…
「なぁんて、私には出来なかったなぁ」
どくどくと、荒い心音が煩い。
遥か先、息を散らしながらも歓声を身に受ける彼女
自分に真面目で、
期待を掛けられて
そうして気付けば私を追い抜いていった彼女
幼い頃から続けて早十数年、
「好き」の感情だけで走り続けた時に目にした彼女
単に目に入っただけなのに気になって
遠巻きに勝手にライバル視して
彼女は何も知らぬ間に私を負かしただけの事
ただ、名も無く埋没していくのは私の方で
「彼女」は、これから先進み続けて
栄光を手にするのかもしれない
それが悔しいのか或いは羨ましいのか
いいや、そんなもの。
「ただの言い訳にしかならないや」
ある少女は、栄えある台に立つ事も出来ず。
ある少女は、そんな誰かの感情も知る事無く。
そうしてある夏が終わったのである。
10/7/2022, 3:41:11 PM