灰色の雲が空を覆っていた。今にも雨が降り出しそうな空の下、あまねは駅のベンチに座っていた。
「…やっぱり、降るかな」
独り言のように呟いたその瞬間、ぽつりと頬に冷たいものが落ちた。あまねは空を見上げる。
「レオ、傘持ってきた?」
隣に座っていたレオは、スマホをいじりながら首を横に振った。
「持ってない。まぁ、降っても走ればいいだろ」
「……バカ」
あまねはため息をつきながら、自分のカバンから折りたたみ傘を取り出した。レオの方に少し傾けると、彼はくすっと笑った。
「やっぱりあまねはしっかりしてるな」
「当たり前。レオが適当すぎるだけ」
雨が降り出した。小さな傘の下、二人は肩を寄せ合うように歩き出した。
「なあ、あまね」
「……何?」
「雨って嫌いじゃないけど、曇りはちょっと苦手だな」
「なんで?」
「なんかこう、スッキリしないだろ。雨は降ったら降ったってわかるけど、曇りって、降るのか降らないのかハッキリしないし…」
あまねは少し考えたあと、小さく笑った。
「レオらしいね。白黒ハッキリしてるのが好きなんだね」
「まあな」
レオはあまねの方を見て、不意に言葉を続けた。
「でも、こんな曇り空の下でも、お前と一緒なら悪くない」
あまねは一瞬動きを止め、それからそっぽを向いた。
「……何言ってんの」
「別に?」
レオはにやりと笑い、傘の端を少し引っ張った。
曇り空の下、二人の距離はほんの少しだけ近づいた。
3/23/2025, 10:18:38 AM