千明@低浮上

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クリスマスが終わり、残すイベントは年末年始だけとなった。
あと数日で会社も仕事納めを迎えて、彼と会えなくなってしまう。

チラチラと雪が落ちる窓の外を眺めながら今日も彼はこの寒い中外回りをしているのだろうか、と思いを馳せる事しかできない。

同期の彼とは、入社してもう何年も経つと言うのに一向に距離が縮まらなかった。
どうにかして話しかけたいと意を決して足を彼の元へ進めてみても、目の前に立つと物おじしてしまうのだ。自分よりも頭一つも二つも高いところからあの薄い茶色の双眸で見つめられると、途端に頬に熱が集まり、たちまちやる気はシュルシュルと縮んでしまって、意と反して足はくるりと踵を返してしまうのだった。
(何年も、声をかけることすらできないなんて。情けない...)
はぁ、と深い深いため息をついて、少し休憩しようと社内にある自販機へ歩いて行くとそこには先客がいた。咄嗟に物陰に隠れてしまった。
(あぁもう、またやってしまった!)
見知った後ろ姿にトキン、と胸が鳴る。
(お疲れ様、ぐらい言えないの?私のバカ..!)

恐る恐る彼を覗くと自販機の前に立ち尽くしている。彼が見つめる先、握られた手の中にはカフェオレの缶。どうやら間違えてしまったらしい。彼は確かブラックコーヒーしか飲まないはずだ。
(好機だぞ、私!)
震える手をギュッと強く握りしめて、コツ、とヒールを鳴らし一歩前に出した。
彼の横に立ってチャリチャリと小銭を投入し、ブラックコーヒーのボタンを押すとガコンという音が響いた。それを握って彼に向き直る。
ドッドッと心臓はペースを早め、全身に血が巡るのを感じる。
(頑張れ、私!)

「あの、コレ!よかったら、交換しませんか...!」
「....いいんですか」
「え、ええ!勿論!」

ありがとうございます、と彼が私の缶コーヒーを受け取ってくれてホッと胸を撫で下ろした。やっと、やっと話しかけることができた...!下を向いてグッと湧き上がる喜びを噛み締めていると視界に彼の靴先が入ってきた。
ハッとして顔を上げるととても近い位置に彼が居た。

「わっ!」
「やっと、話しかけてくれましたね。待ちくたびれましたよ」
「えっ!?」
「あんなに毎日熱い視線を向けられれば誰でも分かります」
「え、あ...、す、すみません..」
「いえ、怒っているわけではありません。やっと、貴方との関係を変えられる、と喜んでいるんですよ」

そう言った彼は私の頬に手を添えた。

「まずは友達から、始めませんか」





#変わらないものはない

12/26/2022, 12:51:29 PM