「____こんにちは。へへ、今日も来ちゃいました。」
そう言ってその日も私は、眩しいくらいに青い空を見上げた。
どうも。最近ずーっと寒いですねえ。
だからここはひとつ、暑い夏の話を貴方へ。
私は音楽家。音楽の作れない、しがない音楽家でございます。
最近本当に、ずっと寒い。
あ、でも私。暑いより寒いのほうが好きですよ。
汗っかきでしてね、外に出ただけですーぐ汗がダラダラ…
とまあ、変な話はこれくらいにしておきましょう。
今日のお話は、私が経験したひと夏の思い出。
ソレが来年も太陽を見ることが出来るように、どうか見守ってあげておくれ。
「う゛〜〜〜〜、あづい。なんでこんなに暑いんだ。」
「世界が狂ってますよほんとに。」
「そんでなんでわたし、は、っぶねぇ!………なんで私は」
墓探しなんてしてるんでしょう。この、真夏に。
ガサガサと草藪を掻き分けながら進む。
流れ出る汗と張り付く髪。オマケに自分の背よりも高く高く上に伸びやがる草たち。
途中途中には変に飛び出たツタやツルなんかが中途半端に攻撃してくるもんで、暑くても腕まくりひとつできない状況である。
なんでこんな所にいるかと言うにも訳がありまして。
それは遡ること1日。
ある知人夫婦に頼まれ事をされたのがキッカケだった。
曰く、寿命で天寿をまっとうした祖母の唯一の未練が、ある「もの」だったらしい。
どうにかその「未練」とやらを解消してあげたい一心で探したが、見つかる前に祖母は眠ってしまったのだという。
唯一のヒントは「曾祖母の墓」。
ただし、場所は分からないものとする。
「もの」であるなら、祖母と一緒の墓に入れてあげたい。
そう涙ぐみながら言った彼女は所謂「おばあちゃんっ子」だったのだろう。少し古めかしいハンカチを握りながら彼女は頭を下げてきたのだ。
そんなこと言われてしまえば、首を振るにも勇気が必要だ。
挙句涙脆い旦那まで泣き始めたらもう、振る首は縦でしかないだろう?
そこまで、私は薄情ではないからさ。
そんなわけで、私は今ガサガサとバッタのように草を掻き分けているのだ。
無限に続く緑をかき分けながら荒くなってきた息を整えた。
その瞬間、青い空が見える。
「お、……ぇ、ワ!!!」
「向日葵じゃないですか!」
たった1本が太陽にグッと背伸びして憧れる大きな花。
そしてその足元には、比例するように小さく置かれる墓。
___ここが、1日かけて探していた目的地だった。
整ってきた息をそのままに、その墓へと近づく。
名前を確認してその場に座り込んだ。
それにしても。
この1本だけ咲いている向日葵はなんなんだろうか?
まだ「祖母の未練」とやらを見つけていないのでまだ帰ることは出来ないのだが。
さて、そろそろ「未練」を探すことにしましょうか。
「ねぇよ!!!!!も゛ー!帰らせてくださいよ!!」
未練になりそうなもの、と言われても。
墓の周りには花1本もない。
いや、花はあるんだけど。
まだまだ時間はかかりそうである。
_______なあ、※※※。
儂が先に死んでも、お前が先に死んでも。
お互い寂しいのは嫌だろう?
だからさ、どっちかが死んだらさ。
お互いの好きな花でも植えようよ。
………なに?儂か?儂の好きな花?
…………………………向日葵だな。
明るくて、とても。
お前を思い出せるからね。
太陽のもとで何も無い日常を。
敬具 貴方達をおもう音楽家より。
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すみません着地点辺りで地面見失いました。
11/25/2023, 6:21:41 PM