海月

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「さむーーい!!」

隣に立つ少女が体を縮こまらせ、首に巻いた毛糸のマフラーに顔を埋める。少女はポケットからカイロを取り出し、両手で包み込むように持つと手の甲を温めるように白い息を手に吐き出した。
今日は風が強い。おかげで雲一つない快晴ではあるが、冷たい北風はぴしぴしと肌を痛めて通り過ぎていく。そのうち鎌鼬も現れそうな日だ。早く帰るのが吉だろう。

「風止んでくれたら、ちょっとは暖かいのに。」

そうこぼした瞬間に風が吹き、少女はあ゙ー!と苛立ちを込めて叫びながら小さな体を更に小さくしていた。

「バス来るまででいいから風止んでー!!神様ーー!!」

ヤケクソのように少女は叫ぶ。時刻表によればバスが来るまであと10分だ。その間、彼女は屋根も壁もない看板のみのバス停でバスを待たなければならないらしい。この時期に年若い少女が寒さに凍えるのも見るに堪えない。
仕方がない。今回限りだ。
手を天に掲げ、風に揺られる着物の袖が止まるのを待つ。降りてきた相手に暫しの間止めてやってくれと伝えると、相手は快く頷いた。仕事が多くて疲れていたらしい。

「……あ、風止まった……あったかぁ……」

少し時間が経ち、風が吹かなくなった事に気が付いたらしい少女は、冬晴れの陽だまりの中でほうっと息を吐いた。
社から動けないまま少女に声を飛ばす。

『明日は厚着してきなさい』
「はぁい。……えっ?」

きょろきょろと少女が辺りを見渡す。
全く、足なんて出すから寒いのだ。

1/6/2025, 12:38:10 AM