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凍てつく鏡(オリジナル)(異世界ファンタジー)

我が街には人工の観光名所がある。
魔道具を使ったテーマパークだ。
職人が腕によりをかけて作成した魔道具をお披露目する場でもあるし、展示即売会の意味もある。
特に人気なのがミラーハウス、鏡の迷路だった。
ところどころの鏡に凍てつく魔法が施されており、迷路は細く複雑で、途中に仕掛けもあり、ゴールできる者は少なかった。
無事にゴールまで辿り着いた者には、迷路の中で得た魔道具と、豪華賞品が与えられた。
これまでのゴール最短記録は半日だったが、本日、2時間という、とてつもない記録を出した人間が現れた。
ヒト族の冒険者で、名をラッツという。
皆、あまりに驚いて不正を疑ったが、どこも壊されておらず、途中の景品である魔道具も手にしており、不正の証拠は見つからなかった。
豪華景品を渡す係であった私が、
「いったいどうやって」
と呟くと、彼は頭をポリポリ掻いて、
「うーん、やっぱ不正ってことになっちゃうかな?」
と、苦笑いした。
「?」
「君、迷路の一番最初の罠の場所わかる?」
「それくらいならわかりますけど…」
「じゃあ、そこまで一緒に来てくれる?」
そう言われて、何が見られるのか、期待しながらついていった。
二人で迷路に入る。
ラッツは先に立ち、両手を壁に当てて前に進んだ。
最初に魔法が発動する鏡の前まで来たが、彼は何の躊躇もなく、スタスタと通り過ぎて行った。
「え?!」
魔法が発動しなかった。
もしや壊れているのかと、恐る恐る手を差し出すと、ビュッと強い勢いで、凍てつく風が吹き出した。
「ひゃっ!」
「うわっ!そこ、仕掛けあったんだ。あっぶね」
驚いて手を引っ込めた私であるが、前を行っていたラッツも風をくらいそうになって驚いていた。
「え?どういうこと?」
「あー俺、魔法使えない呪いにかかってて、魔道具使えなくて。効果としてはたぶん、触ってる間だけ、発動を阻害するみたいなんだよね」
だから、両手でずっと壁を触ることで凍てつく鏡の魔法発動を抑えながら、右手側をずっと行くことで迷路を脱し、後は普通の仕掛けを経験値から看破するだけだったのだと種明かしするのだった。
普通の仕掛けが一番面倒だったとぼやいている。
その証拠に無傷とはいかなかったのだろう、いくつか擦り傷は負っていた。
魔法が発動しないよう壁に手を当てたまま、今度はこちら側に戻ってくる。
とてもズルい。
しかし、そんなことよりも、私は魔道具職人の端くれとして、とても興奮した。
彼に背中を押され、入り口に戻りながら、
「君、なんてすごい魔法にかけられているんだ!」
「いや、呪いね。まぁ、確かに魔法だろうけど」
「それを再現する魔道具をつくりたい!ぜひ色々人体実験させてくれないか!」
そう言って彼の手を握った。
彼は私の突然の豹変にギョッとしたようで、目が泳いでいる。
「いや、俺はこれが解ける人やモノを探していて…」
「それもぜひ、私にやらせてもらえないだろうか!私なら命の保証はします、たぶん、きっと!」
「たぶん?!きっと?!」
「本当に再現可能かわかりませんけど、解呪もいつになるか正直わかりませんけど、人類の未来のために、叡智のために、できる限りのことはします!」
瞳をギラギラさせ、鼻息荒く迫ったら、怖がられてしまったらしい。彼はひきつった笑いを浮かべながら、四苦八苦して私の手を振り解いて、
「え、遠慮しときます!」
全力で、入り口に向かって駆け、否、逃げ出した。
その背中に、商魂逞しく声をかける。
「安くしますよーー!ご検討よろしくです!」
私などこれでまだ可愛い方だ。この街には私以上に魔道具に狂った職人がたくさんいる。
彼は一度も振り返らなかったが、きっとまた会うことになるだろうという予感がした。
なので、それまでに実験の準備をしておこう。
私は堪えきれない喜びに、にんまりと笑った。

12/27/2025, 12:22:56 PM