朝晩の寒さが堪える季節。今日は一段と冷えるし、乾燥も相まって最悪だ。
「おじさん、おはよ」
「おはよう。スープ温めるから、少し待っててくれ」
「ありがと」
彼女はふらふらとした足取りで洗面所へ向かう。そういえば、いつも長袖の体操服を寝巻き代わりにしているが、家においてきてしまっているのだろうか。
普通ならそれで納得がいくが、彼女の家庭環境を考えると、違うような気がする。
「いただきます。暖かくて美味しい」
「それは良かった。そうだ、いくつか聞きたいことがある、いいか?」
快諾してもらったところで、先程考えていた質問をしてみる。
「……ない、よ」
「そうか。わかった」
部屋着だけじゃない。女性である以上、必要なものは多い。これを機に揃えてもらおう。
「買いに行くか」
「え、でも、私はお金そんなに持ってないし……」
「俺が出す。それでいいか?」
「わかった……」
行きは俺の上着を貸し、色んな店を見て回った。彼女も人混みを嫌がるから、手早く済ませて早く帰る方向で進めた。
「ね、どっちがいいかな」
「洗濯するし、二つあってもいい」
「スキンケアだけでもしておいたほうが良い。メイクか?覚えておいて損はない、休みの日に試してみるのもアリだ」
「……おじさん、いつか私にしてくれる?手先が器用だし」
「させてほしい」
「おじさん、重たくない?」
「確かにな。戻って車に積み込もうか」
まぁ色々あったが、目的の衣類系とスキンケア用品は無事に手に入れた。
そして、最後の店に来た。
「すぐ終わるから、もう少しだけ付き合ってくれ」
「いいよ」
コートと帽子を手に取り、彼女を呼ぶ。試着してもらおう。
「これを着てくれないか」
「わかった、終わったら開けるね」
少しして、彼女に呼ばれた。
「素敵だ」
「おじさんのセンスがいいんだよ」
「ありがとう」
もう少しかかるかと思っていたが、そうでもなかった。それに、彼女も満足してくれたみたいだ。
「おじさん、ありがとう」
「あぁ……俺の方こそ。帰るまで時間もかかる。ゆっくり休むといいさ」
しばらくは外の景色を眺めていたみたいだが、久々に歩き回った眠気には抗えなかったらしい。
心地よさそうな寝息が聞こえる。
暖房を入れ、毛布をかけて、家路へと車を走らせた。
『ゼロからの冬支度』
「冬のはじまり」2023/11/30
11/30/2023, 9:50:19 AM