かたいなか

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「『命が燃え尽きるまで』と『心の灯火』なら9月に書いた。双方完全にリアル路線から外れたネタで」
前回が「愛」で今回は「命」か。小さな命とはよく聞くけど、あんまり大きな命は聞かねぇな。
某所在住物書きはぼっち用の小さな鍋で、激安豚バラ軟骨をコトコト煮込みながら、それの味付けをどうしようと思案していた。
換気口のあたりからは、チーチー、お題どおりに「小さな命」の鳴き声が、時折羽音をたててダイレクトに聞こえてくる。暖をとりに来ているのだろう。
スズメかシジュウカラか、ツバメか。鳥類にうとい物書きには、その種類までは分からなかった。

「『小さな』が抽象的だから、下は微生物から上はヘタすりゃ人間まで、何でも書けらぁな」
ところで。物書きはふと天井を見上げる。
「ウイルスって、……『命』?」
ネット情報では、どうも意見が割れているらしい。

――――――

今日も今日とて、どうやら各地、そこそこの寒さが続いている様子。西多摩や奥多摩のあたりは、一応予報上では、雪など降っている様子。
そんな冬の終わりごろ、物書きがこんなおはなしをご用意しました。

都内某所、某アパートの一室、昼。
部屋の主を藤森といいまして、3連休の最後の今日、月末の帰省に向けて荷造りをしておりました。
往復の新幹線のチケットよし、実家に行くので着替えは無し、向こうで使うためのクレジットもQRコード決済用の残高も十分。
東京からのお土産も、美味しいものを選びました。
ただ藤森の故郷は雪国の、現金オンリーが少し残る、昔ながらの田舎町。しっかり現ナマも約10枚、

「……あいつ、ちゃんと現金用意してくるかな」
ふと藤森、一緒に雪国観光する予定の、ネイティブ都民な職場の後輩を思い出します。
ひょっとしたら、キャッシュレスオンリーの現ナマゼロで、「QR使えないの?」かもしれません。
万が一のため、あとで後輩に確認のメッセージを送っておくことにしました。

未だフクジュソウも咲かない、早咲きの桜すら顔を見せない藤森の故郷。春は遅く、暖冬の今年でさえ、道に雪が残っています。
今年こそ一緒に連れてってと、函館のカニとか奥日光の湯葉まんじゅうとか、観光地としての雪国しか知らぬ後輩が言いました。
去年の11月頃、後輩にバチクソ大きい借りを作ってしまった藤森は、ぶっちゃけその借りのおかげで、過去のドチャクソな恋愛トラブルが解決しました。お礼のためにも、今年は少sh

「わぁー!広い広い!ここまでいらっしゃい!」
「狐だってそれくらい、ジャンプできるやい!」
「ねぇホントにボーオンボーシン?ホントにかけっこしてダイジョウブ?ねぇダイジョウブ?」
「うるさいわねぇ。私このふかふかベッドで昼寝したいの。ちょっと黙って」

雰囲気急転。お題回収。細かいことは気にしない。
防音防振設備完備なアパートの一室に、つまり帰省の荷造り中の藤森の部屋に、
雑貨屋の猫又子猫と、稲荷神社の子狐と、薬局の子カマイタチと、惣菜屋の化け子猫が、すなわち東京に住まう不思議で小さな命ぃズたちが、
室内で全力疾走するわ、それを追いかけるわ、
なんなら藤森のベッドを占領してゴロゴロ毛づくろいだのヘソ天だのしてるわ。
それはそれは、もう、それは。マイペースにゴーイングマイウェイしておるのでした。

「……おかしい」
藤森、目の前を駆け抜ける2本尻尾の子猫をチベットスナギツネの視線でジト目して、ため息をひとつ。
「帰省中の鉢植えの世話を、茶屋の店主に依頼しただけ、の筈なんだが」
なぁ。何がどうなってると思う?藤森、キンポウゲ科の小さな芽を出し始めた鉢植えに呟きました。

「そのお茶屋さんの店主さんが、稲荷神社のお住まいで、あの子狐のお母さんなんです」
小さな命ぃズの中で一番真面目そうで、大人しそうな、和菓子屋の化け子狸が、ポテポテポテ、藤森の目の前にやって来ました。
「月末の鉢植えは、僕たちでお世話します」
ひとまずお茶どうぞ。おまんじゅうどうぞ。
ポンポコ子狸、漆塗りの小盆を差し出します。
彼等が鉢植えをひっくり返したりしないだろうかと、藤森は内心、ちょっとだけ不安なのでした……

「……まんじゅう、美味いな」
「僕作りました」
「そうか」
「僕、鉢植えのお世話、責任持ってやります」
「多分、お前だけが頼りだ。よろしくな……」

2/25/2024, 2:39:22 AM