去年の夏、8月のだいたい最初の頃、「鐘の音」というお題を書いた物書きです。
日本式風鐘とはすなわち風鈴のこと。
稲荷神社の子狐が、手水の上に飾られたキラキラガラスの吊り鐘を取ろうとして、ぴょん!
最終的に手水にボチャン、したのでした。
さすがに冬の入口を過ぎた12月に
そんな見の冷える、下手すりゃ凍るような物語を
再掲載するワケにもいかないワケでして。
今回は冬らしいおはなしをひとつご紹介。
最近最近のおはなしです。
都内某所の某稲荷神社、敷地内の一軒家に、
人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐が、去年の夏に神社の手水へ、勢いよくボチャンした遊び盛り。
その日はコンコン子狐の、お気に入りの参拝者が、
子狐のお母さんに頼まれて、子狐に紅白ツートンのハーネスつけて、紅白ツートンのリードでもって、
だいたい10分から20分程度、お外へ散歩に連れていってくれました。
というのも子狐の大親友の化け子狸のおうちが
まさかの代々続く和菓子屋さんでして
その和菓子屋さんが今年初めて
和風シュトレンを限定販売するのです。
『行って、好きな味を買ってらっしゃい』
子狐のお母さんはそう言って、残高が十分チャージされたICカードを託してくれました。
「ICカード? 子狐、使い方は分かるのか」
「あいしーかーど」
「そうだ。分かるのか」
「キツネなんでもしってる」
「本当か」
「キツネうそつかない」
「本当は?」
「うそつかない!キツネ、わかる!」
「和菓子屋でシュトレンを選んだとして、レジに着いたとして、最初にやることは?」
「『ツケといてください』。」
「……そうか」
ガランガラン、がらんがらん。
さぁさぁ、お題回収です。
遠い鐘の音が、ガランガラン。
子狐の大親友、化け子狸の和菓子屋さんの方から、
少し控えめに、でも確かに、聞こえてきました。
和風シュトレンが焼き上がったのです。
「はやく!はやく!しゅとれん!」
ギャギャギャ!きゃんきゃん!
コンコン子狐はリードを引っ張って、なかば跳んでるような、二足歩行モドキになりながら、
一緒に散歩してくれる参拝者さんを引っ張って、
遠い鐘の音めがけて、猛ダッシュします。
数人程度並ぶ和菓子屋さんの、列の先では和菓子屋の若い店員さんが、がらんがらん。
シュトレンの店頭販売開始を告げます。
お客様の目の前で、お客様の望みの量の、美しいパウダーシュガーをパタタタタ。振るのです。
「はい、まいど、まいど!お待たせしました」
子狐の親友の子狸も、しっかり人間に化けて、白い三角頭巾をして、お店のお手伝い。
砂糖振ってラッピングしたシュトレンを受け取って、それを和紙風の柄の箱に詰めます。
詰められたシュトレンは、たしかに粗熱はある程度、抜けているものの少し温かくて、
なにより、バターと砂糖の良い香りがします。
「しゅとれん、しゅとれん、しゅとれん」
くぅくくく、くぅくぅ、くわぅ!
リードで引っ張られて、二足歩行の子狐です。
ぴょんぴょん跳ねて、尻尾も振ります。
人間が子狐を散歩させているというより、
子狐が人間を散歩させているような強引さで、
子狐は参拝者さんのリードを引っ張ります。
「はい、次のお客様!お待たせしました」
遠い鐘の音に導かれて、和風シュトレンの販売場所に到着した子狐の尻尾は、完全に高速回転。
お母さん狐から貰ったICカードで、全種類の和風シュトレンを1個ずつ購入して、
こやこや、こやん!嬉しそうに帰りましたとさ。
12/14/2025, 9:38:23 AM