この仕事に勤めてから数百年。未だ顧客が途絶えないのは死んだ者の救いになるからだろう。星の人となった彼らは魂の一部を分け、この機関車の燃料として提供してくれている。今までどんな人生を歩んだかに問わず、平等に役立てる機会が得られるのは一定数の人間にとって需要がある。更に、実際に機関車に乗り御客として旅を楽しむことも出来るのだ。
惑星と惑星の間を行き来しながら自らの一部を燃やして走る機関車からは、蒸気の代わりに星のかけらが舞い上がる。この星のかけらが重要で、夜空を彩る星座に光を与える役割を担っている。元々星座は何億光年も先の星々だ。そのため、光の限界が来ると定期的に星のかけらの輝きを吸収し、作り変わることで形を保っている。
この機関車を走らせる主な理由はこれだ。こちらが私の本来の仕事であり、宇宙旅行はそのついでだ。車窓から見える金粉をまぶしたような細かい煌めきは、命を燃やすだけあって地上ではお目にかかれない程に綺麗なもので。一人二人だけで独占するのは勿体無いと考えた先代のおかげで、こうして名物となった。運転士にとっても、車掌にとっても、御客にとってもやり甲斐のある行事で、中には犠牲になることで輝ける喜びに魅入られ、ぎりぎりまで魂を削ろうとする者も居る。
「……間もなく終点、地球です。お忘れ物の無いようお支度ください。本日も星群エクスプレスをご利用いただき有難うございました」
車掌のアナウンスが聞こえ、終着駅に向けてブレーキ弁を操作する。星の人は再び地球の上で瞬き、数年に一度のこの機会をまた楽しみに待つのだろう。この仕事に携われることを誇りに思う。失われた心臓の位置にそっと手を当て、車両から降りていく彼らを静かに見送るのだった。
#星のかけら
1/10/2025, 10:07:27 AM