99.『予感』『秋風🍂』『無人島に行くならば』
朝、目が覚めた時、私は思った。
『今日は無人島に行く』と……
ともすれば無視してしまいそうな、かすかな予感。
だが儚さとは裏腹に、絶対的な未来予知のものであった……
私は、しばしば未来に起こることを予感することがある。
その予感は、不思議なことに一度も外したことがない。
まるで神様が予定を書き込んでいるかの如く、その予感は絶対である。
今日の運勢ならぬ今日の運命。
そして今日の予感は、いつもより随分と物騒だった。
無人島なんて行きたくはないけど、予感した未来は避けられない。
どんなに運命に抗おうとも、最終的にはおよそ起こりえない事故が立て続けに起こり、結局は無人島に行く羽目になる。
今までの人生がそうだったのだ。
だから、無人島に行くこと前提で考えた方が、よほど建設的だ。
それに『人付き合いに疲れて、誰もいない無人島に行く』と考えれば、ちょっとだけ気持ちは上向きになる。
無人島にいるのは、経験上一週間くらい。
砂漠やジャングルに放り出されたときや、異世界転移したときも、そのくらいだった。
一週間、無人島で過ごす。
ちょっとしたバカンスだ。
サバイバルグッズは、一通り持っているので問題ない。
砂漠やジャングルでお世話になった、信頼できる品を持っている。
持ち運びも、異世界に行くときにもらったチートで全て収納できるので、考えなくてよし。
つまり無人島に行くに当たって、特に準備するものは無さそうだ。
今回は楽できそうだ。
だが、どうせ無人島に行くならば、無人島ならではの事を体験したい。
無人島といえば誰もいない浜辺だが、秋の冷たい海に入りたいとは思わない……
せっかく島に行くと言うのに残念だ。
もう少し早い時期だったら良かったのに……
では他に何があるだろうか。
少しだけ考えて、あることを思いついた。
「バーベキュー、だな」
日本において、バーベキューを禁止している地域は無い。
だがバーベキューは煙が出てしまうため、住宅街でしようものなら非難の嵐。
かといってバーベキュー場も、遠くにあるため行くだけで疲れてしまう。
行ったら行ったで、人が多すぎてウンザリしてしまうことだろう。
日本はバーベキュー愛好家にとって、なんと息苦しい国であることか……
だが無人島は違う。
バーベキューでどれだけモクモクと煙を立てようとも、誰にも怒られない。
人はいないので、一人気ままに自由を謳歌することが出来る。
好きなだけ肉を焼けるし、騒いでも迷惑にはならない。
夢のような環境だ。
ということで、バーベキューで決まり。
テンションが上がって来た!
だが、さすがにバーベキューセットは持っていない。
いつ無人島への正体が来るか分からないので、すぐさま準備をしないと。
ああ、肉も買わないといけないな。
それも、とびっきりの上級肉を!
もちろん野菜も用意だ。
肉ばかりだと飽きてしまうからね。
せっかくのバーベキューパーティ!
気の済むまで楽しんでやろう。
さあ、パーティの始まりだ!
🏝️
いやあ、すごかったね。
まさか買い物の帰り道、秋風と共にやってきた宇宙人に誘拐されるも、UFOが自衛隊によって撃墜、墜落してそのまま無人島に漂着するとは夢にも思わなんだ。
かつて竜巻に巻き込まれて渡り鳥と共に海を渡ったことがあるが、それを超えるドラマであった。
珍しい経験をして若干浮足立っているが、本命は無人島でのバーベキュー。
気を取り直して、準備を始めることにした。
同じく漂着した宇宙人がいるのは計算外のものの、邪魔する気はないようなので無視して構わないだろう。
超科学で作られた宇宙人自慢のUFOも、塩水を前に無力だったようだ。
海は偉大である。
チートで収納していた道具を一通り取り出して、肉を焼き始める。
香ばしい匂いがし始めて、さあ食べようかと言う時、宇宙人が視界に入る。
宇宙人は物欲しそうに、こちらを見つめていた。
もしかしたらお腹が減っているのかもしれない……
相手は自分を誘拐した凶悪犯なので肉を分ける義理は無いのだが、腹が減った奴がいる横で美味しく肉を食べるほど、私は肝はすわってない。
どうしたものかと少し考えた末、『どうせ肉はたくさんあるから』と宇宙人に分ける事にした。
手招きが通じるかは半分賭けだったが、意図は伝わったようで警戒しながらも近づいて来る。
その時突然予感があった。
その予感は、『一週間後、宇宙人と人類が同盟を結ぶ』というもの。
タイミング的に、肉を分けたからであろう。
いい事をしたと、私は満足していた。
美味しい肉が食べれて、人類の平和に貢献する。
なんて素晴らしい。
完璧だ。
だがその時、予感ではない切実な確信が私の脳裏をよぎる。
肉を食べながら、体が発するSOS。
なんてこった。
とんでもないミスをしでかしてしまった。
くそ、焼き肉の相棒、白飯を忘れた。
10/28/2025, 9:33:26 AM